コンビニ経営では、「もっと接客を良くしよう」という話がよく出てきます。
もちろん、接客は大切です。
お客様を不快にさせない。
きちんと挨拶する。
正確に会計する。
困っているお客様には丁寧に対応する。
これは店舗運営に必要な基本だと思います。
ただ、長年コンビニ経営をしてきた私には、少し気になることがあります。
それは、
「接客を良くすること」と「店舗経営を良くすること」が、同じになっていないか?
ということです。
コンビニは、高級ホテルでも高級レストランでも、不動産販売でもありません。
業態が違えば、商品も違います。
商品単価も違います。
粗利も違います。
お客様が求めているものも違います。
だからこそ、接客のあり方も違って当然だと思っています。
- 高級ホテルや高級レストランは「時間と空間」を売っている
- 不動産や自動車販売は「時間をかけて価値を伝える」
- コンビニが売っているのは「タイパ」でもある
- 商品単価と粗利が違えば、適正な接客も違う
- 昔のコンビニは、今ほど接客レベルが高くなかった
- コンビニが成長したのは「接客」だけではない
- 暇な店舗ほど「接客」に意識が向きやすいのではないか
- お客様が少ないなら「なぜ来ないのか」を考える
- サークルKの接客は素晴らしかった
- 私は直営店で「接客コンテストのような接客」を見たことがない
- 「最高の接客」と「最適な接客」は違う
- 本気で接客を売るなら、経営資源を集中させるべき
- 接客を強化するコストは、誰が負担するのか
- 本部の本質は「現場に頑張らせること」ではない
- 最低賃金が上がっても、人に依存する経営には限界がある
- 人の価値は上がる。でも、人には不確定要素もある
- Amazonは「人」ではなく「仕組み」で価値を作った
- セブン‐イレブン自身も「近くて便利」で成長してきた
- 日本の接客は、すでに非常に高い水準にある
- 「高品質・低価格」が当たり前になっていないか
- これからのコンビニに必要なのは「人+仕組み」
- まとめ|「もっと接客」ではなく「もっと便利に」
高級ホテルや高級レストランは「時間と空間」を売っている
高級ホテルや旅館では、客室や料理だけを売っているわけではありません。
非日常的な空間。
特別な時間。
細かな気配り。
丁寧なサービス。
こうしたものを含めて、お客様は料金を支払っています。
高級レストランも同じです。
料理だけではなく、
- 店内の雰囲気
- 料理の説明
- スタッフの所作
- 会話
- サービス
まで含めて商品です。
だからこそ、厳しい接客研修を行うことにも合理性があります。
接客そのものが商品の価値の一部だからです。
不動産や自動車販売は「時間をかけて価値を伝える」
不動産や自動車販売も、コンビニとは大きく違います。
不動産は非常に高額です。
自動車も数百万円単位の商品です。
そのため、
「この商品にはどんな価値があるのか」
「他の商品と何が違うのか」
「なぜこの商品を選ぶのか」
を時間をかけて説明することに意味があります。
営業担当者がお客様の話を聞き、商品を提案し、疑問に答える。
ここでは、
時間をかけて価値を伝えること自体が、販売活動の一部です。
高単価の商品を扱う業種ほど、接客に時間とコストをかける合理性があります。
コンビニが売っているのは「タイパ」でもある
では、コンビニはどうでしょうか。
私は、コンビニが提供している大きな価値の一つは、
「時間をかけずに必要なものを買えること」
だと思っています。
近い。
すぐ買える。
必要なものが揃っている。
レジが早い。
24時間利用できる。
こうした利便性そのものが、コンビニの商品です。
お客様の中には、店員さんとの会話を楽しみにしている方もいるでしょう。
一方で、
「必要なものを買って、できるだけ早く帰りたい」
というお客様もたくさんいます。
だから、
コンビニでは「丁寧さ」だけでなく「速さ」もサービスです。
商品単価と粗利が違えば、適正な接客も違う
高級ホテル、高級レストラン、不動産、自動車販売、コンビニ。
すべてを「接客業」と一括りにすることはできます。
しかし、商品単価も粗利も、お客様一人にかけられる時間もまったく違います。
高単価の商品なら、一人のお客様に時間をかけても、その時間に見合う利益を確保できる可能性があります。
一方、コンビニの商品は、一品数百円程度の商品も多くあります。
そのため、一人のお客様に長時間接客することには限界があります。
つまり、
商品単価と粗利が違えば、接客にかけられる時間とコストも違って当然です。
高級ホテルの接客を、そのままコンビニに持ち込む必要はありません。
昔のコンビニは、今ほど接客レベルが高くなかった
昔のコンビニを思い出してみると、現在ほど接客に厳しい時代ではなかったと思います。
その象徴の一つが、
「コンビニ言葉」
という言葉です。
「1,000円からお預かりします」
といった表現が、当時は普通に使われていました。
それでもコンビニは成長し、店舗数を増やし、社会に定着していきました。
では、なぜでしょうか。
私は、
本部が時代のニーズを捉えていたから
だと考えています。
コンビニが成長したのは「接客」だけではない
当時のお客様が求めていたのは、
「近くにあってほしい」
「いつでも買いたい」
「必要なものをすぐ買いたい」
「生活に必要なサービスを簡単に利用したい」
という便利さでした。
そこでコンビニは、
- 24時間営業
- 弁当
- おにぎり
- ATM
- 公共料金
- 宅配便
- コピー
- チケット
- 各種サービス
などを次々と提供してきました。
つまり、
接客を高度化する前に、「便利さ」という大きな価値を作ってきたのです。
私は、ここにコンビニの成長の本質があると思っています。
暇な店舗ほど「接客」に意識が向きやすいのではないか
これは、あくまで私自身の経験から感じていることです。
すべての店舗に当てはまるわけではありません。
ただ私は、
お客様が少ない店舗ほど、接客に意識が向きすぎることがあるのではないか
と感じています。
忙しい店舗では、
- レジ
- 品出し
- 発注
- 清掃
- 商品整理
- 宅配便
- 各種サービス
など、次々と仕事が発生します。
スタッフは自然と、
「今、何を優先するべきか」
を考えなければなりません。
一方で、来店客が少ない店舗では、手が空く時間があります。
すると、
「もっと挨拶をしよう」
「もっと笑顔で接客しよう」
「もっとお客様に声をかけよう」
という方向に意識が向きやすくなることがあります。
しかし、
それで本当に売上が増えるのでしょうか。
お客様が少ないなら「なぜ来ないのか」を考える
店舗にお客様が少ないのであれば、本来考えるべきなのは、
なぜお客様が来ないのか
ではないでしょうか。
例えば、
- 立地
- 商圏
- 品揃え
- 欠品
- 価格
- 競合
- 駐車場
- 店舗認知
- 商品の見せ方
などです。
そこを考えず、
「もっと接客を良くしましょう」
だけでは、根本的な問題が解決しない可能性があります。
お客様が来ない原因が品揃えや立地にあるのであれば、接客だけを改善しても売上は大きく変わりません。
だから私は、
接客を改善する前に、店舗そのものが選ばれる理由を考えることが重要
だと思っています。
サークルKの接客は素晴らしかった
今はなくなってしまったサークルKですが、私自身は、
サークルKの接客は素晴らしかった
という印象があります。
だからこそ、接客について考えるときに興味深い事例だと思います。
接客が素晴らしい。
それでも、企業の競争力は接客だけでは決まりません。
商品。
価格。
立地。
ブランド。
物流。
システム。
店舗数。
マーケティング。
そして経営戦略。
さまざまな要素が組み合わさって企業の競争力になります。
つまり、
どれだけ接客が素晴らしくても、接客だけで企業や店舗の競争力を決めることはできません。
私は直営店で「接客コンテストのような接客」を見たことがない
これも、あくまで私自身の現場経験です。
長年コンビニ経営をしてきましたが、
セブン‐イレブンの直営店で、接客コンテストに出てくるような接客を日常的に行っている店舗を見たことはありません。
もちろん、これは直営店の接客レベルが低いという話ではありません。
私が言いたいのは、
接客コンテストで披露されるような接客を、日常の店舗運営で常に行う必要があるのか
ということです。
接客コンテストは、
最高レベルの接客を披露する場。
一方、日常の店舗運営では、
限られた人数で、店舗全体を効率的に運営すること
が求められます。
この二つは目的が違います。
「最高の接客」と「最適な接客」は違う
私は、
最高の接客と、日常の最適な接客は違う
と思っています。
例えば、昼12時にレジに10人並んでいるとします。
そのとき、一人ひとりのお客様に時間をかけて丁寧に商品説明をしたらどうなるでしょうか。
レジ待ち時間は長くなります。
お客様が求めているのは、
「早く会計してほしい」
かもしれません。
その場合、
素早く正確に会計すること
のほうが、はるかに良いサービスです。
つまり、
「接客を増やす=サービス向上」ではありません。
本気で接客を売るなら、経営資源を集中させるべき
ここで、もう一つ考えてみたいことがあります。
もし本当に、
「コンビニの競争力を決める最大の要素は接客である」
と本部が考えているのであれば、接客にもっと経営資源を集中させてもいいはずです。
例えば、
- 接客教育への大幅な投資
- 接客レベルに応じた高い時給
- 接客時間を確保するための人員増加
- 研修時間の確保
- 接客品質に対する報酬制度
などです。
本当に接客が売上や利益を生み出す重要な要素なら、
そこに人・お金・時間を集中させることには合理性があります。
ところが現場から見ると、
「もっと接客を」
というメッセージはあっても、それを実現するための経営資源まで大きく増やすことは簡単ではありません。
そこで私は、
もしかすると、本部自身も「接客にそこまで経営資源を投入しても、大きなリターンは得にくい」と考えているのではないか。
と感じてしまいます。
もちろん、これは私自身の推測です。
接客を強化するコストは、誰が負担するのか
接客を良くするためには、
人件費
教育時間
スタッフの作業時間
オーナーの管理時間
などが必要です。
つまり、
接客は決して無料ではありません。
「もっと接客を良くしましょう」という方針自体は簡単に言えます。
しかし、実際にそれを店舗で実現するにはコストがかかります。
だからこそ、
「そのコストを誰が負担し、その結果誰にどんなリターンがあるのか」
という視点が必要だと思います。
本部にとってブランドイメージが向上することと、個々の店舗の利益が増えることは、必ずしも同じではありません。
本部の本質は「現場に頑張らせること」ではない
私は、本部の本質的な役割は、
「現場スタッフにもっと頑張ってもらうこと」
ではないと思っています。
本部が考えるべきなのは、
「お客様が何を求めているのか」
を捉えること。
そして、
そのニーズをどうすれば店舗で実現できるのか。
これを仕組みにすることです。
コンビニが成長してきたのも、接客だけが理由ではありません。
「近くに欲しい」
「いつでも買いたい」
「すぐ買いたい」
「生活に必要なサービスを使いたい」
というニーズを捉え、それを店舗という仕組みに落とし込んできました。
最低賃金が上がっても、人に依存する経営には限界がある
最低賃金は上昇しています。
しかし、最低賃金が上がったからといって、コンビニのアルバイトが高級ホテルや高級レストランのスタッフと同じような専門職になるわけではありません。
依然として、最低賃金に近い水準で働くスタッフが多い業態です。
そこに、
「もっと丁寧に」
「もっと笑顔で」
「もっと気を利かせて」
と要求し続けることには限界があります。
さらにこれからは、
人材確保
コンプライアンス
人件費
働き方に対する価値観
などの問題も大きくなっていきます。
だからこそ、
人を大切にしながら、人に依存しすぎない仕組み
が必要だと思います。
人の価値は上がる。でも、人には不確定要素もある
私はこれから、
人の価値はますます上がる
と思っています。
人手不足になれば、優秀な人材の価値は上がります。
しかし同時に、
人には不確定要素が多い
という現実があります。
同じ教育をしても、全員が同じ仕事をするわけではありません。
接客が得意な人もいれば、苦手な人もいます。
長く働く人もいれば、突然退職する人もいます。
体調や家庭の事情で勤務できなくなることもあります。
つまり、
人だけでサービス品質を安定させることには限界があります。
だからこそ、仕組みが必要なのです。
Amazonは「人」ではなく「仕組み」で価値を作った
ここでAmazonは非常に分かりやすい例です。
Amazonは、コンビニのような対面接客を基本としていません。
それでも、
- 商品を探せる
- 比較できる
- レビューを確認できる
- 自宅から注文できる
- 配送してもらえる
という仕組みを作りました。
人が毎回説明しなくても、
システムそのものがお客様の買い物をサポートする。
これによって、多くのお客様にサービスを提供しています。
Amazonとコンビニはもちろん違います。
しかし、
「人が頑張ることでサービスを良くする」のではなく、「仕組みによってサービスを安定させる」
という考え方は、コンビニにも参考になると思います。
セブン‐イレブン自身も「近くて便利」で成長してきた
そして、これはセブン‐イレブン自身にも言えることです。
セブン‐イレブンは、
「近くて便利」
というコンセプトで成長してきた企業です。
家の近くにある。
必要なものが買える。
いつでも利用できる。
生活に必要なサービスが利用できる。
これこそ、コンビニという業態の大きな価値です。
つまり、
セブン‐イレブンが成長してきた理由は、接客の高度化だけではありません。
利便性を追求してきたことも、大きな成長要因だったと思います。
日本の接客は、すでに非常に高い水準にある
もちろん、時代錯誤な接客をする人もいます。
しかし、令和の時代になって、昔のような接客をする人はかなり少なくなったと感じます。
外国出身のスタッフでも、気持ちの良い接客をする人はたくさんいます。
私は、日本の接客業のレベルは、世界的に見ても非常に高い水準にあると思っています。
それでも、
「もっと丁寧に」
「もっと気を利かせて」
「もっとお客様に寄り添って」
と要求が続く。
ここには、日本のサービス業が抱える一つの問題があるのではないでしょうか。
「高品質・低価格」が当たり前になっていないか
日本では、
高品質なサービスを低価格で提供すること
が当たり前になりすぎているように感じます。
丁寧な接客。
きれいな店舗。
細かな気配り。
スピーディーな対応。
そして安い商品価格。
すべてを求める。
しかし、そのサービスにかかるコストを価格に十分反映できなければ、働く人の給与にも限界があります。
もちろん、給与が低い原因は一つではありません。
生産性、商品単価、粗利、企業収益、労働市場など、さまざまな要因があります。
それでも、
「サービスは高品質。でも価格は安く」という文化が、サービスを提供する人の収入を上げにくくしている一因ではないか
と私は感じています。
これからのコンビニに必要なのは「人+仕組み」
私は、
人か、機械か
という二択ではないと思っています。
必要なのは、
人+仕組み
です。
人にしかできない仕事には、人を配置する。
人でなくてもできる仕事は、できるだけ仕組みに任せる。
そして、人が必要な場面に人の力を集中する。
これなら、
人を大切にしながら、人に依存しすぎない店舗運営
ができます。
まとめ|「もっと接客」ではなく「もっと便利に」
私は接客を否定しているわけではありません。
むしろ、気持ちの良い接客は必要だと思っています。
ただ、
接客だけがコンビニ経営の本質ではありません。
高級ホテルは、空間と時間を売る。
高級レストランは、料理と特別な時間を売る。
不動産や自動車販売は、時間をかけて高額商品の価値を伝える。
そしてコンビニは、
「近くて便利」「早く買える」「時間を節約できる」
という価値を売る。
それぞれ、目的が違います。
だから、最適な接客も違って当然です。
これから人材確保が難しくなり、コンプライアンスへの対応も増え、人件費も上昇していけば、人の価値はさらに高くなるでしょう。
だからこそ、
人にもっと頑張ってもらう
という方向だけではなく、
人が頑張らなくても、お客様のニーズを実現できる仕組み
を作る必要があります。
Amazonには、その成功事例があります。
そしてセブン‐イレブン自身も、
「近くて便利」
というコンセプトを追求することで成長してきました。
だから私は、本部に期待しています。
接客を否定するのではなく、
「もっと接客を」から「もっと便利に」へ。
商品、サービス、システム、物流、店舗設備、オペレーション。
本部だからこそ変えられるところに、もっと経営資源を投入してほしい。
私はセブン‐イレブンというブランドに期待しています。
だからこそ、
もう一度「近くて便利」という原点を大切にしてほしい。
本部が仕組みを作り、店舗がそれを活用する。
人にしかできない仕事には、人が力を使う。
それ以外は、できるだけ仕組みで効率化する。
人を大切にするからこそ、人に依存しすぎない。
これが、これからのコンビニ経営に必要な考え方ではないでしょうか。
そして私は、
**本部の改善には期待する。
でも、本部と心中するつもりはありません。**
オーナー自身も、自分の店舗と将来を守るために、時代の変化を見ながら経営判断をしていく必要があります。
接客は大切。
でも、
「もっと接客を」ではなく、「もっと便利に」。
これが、長年コンビニ経営をしてきた私の率直な考えです。
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