阿久津社長の1,000店出店計画を考える――人口減少時代は「店舗規模」より「店舗精度」ではないか【第148話】

阿久津社長の1,000店出店計画を考える――人口減少時代は「店舗規模」より「店舗精度」ではないか【第148話】 コンビニ経営

セブン-イレブンは、2030年度までに国内店舗を1,000店純増させる計画を掲げています。

阿久津知洋社長は、複数店経営や新規加盟の促進などを通じて、出店と事業の持続的成長を目指しています。

1,000店舗という数字は、非常に大きな成長目標です。

セブン-イレブンが、これからも店舗網を拡大していく意思の表れでもあります。

しかし、私は現役オーナーとして、この計画を単純に「1,000店舗増やす」という視点だけでは考えたくありません。

私が考えたいのは、

人口が減少していくこれからの時代に、セブン-イレブンは何を「成長」と考えるべきなのか。

ということです。

私は、これからのセブン-イレブンには、

「店舗規模を拡大する成長」から「店舗精度を高める成長」への転換

が必要なのではないかと思っています。

鈴木敏文氏が築いた「既存店を伸ばしながら出店する」モデル

セブン‐イレブンの成長を語るうえで、鈴木敏文氏の出店哲学は外せません。

鈴木氏は、既存店の売上が落ちている状況で、単純に店舗数を増やしていくことには慎重な考えを示していました。

過去のインタビューでは、天候などの一時的な要因を除き、既存店の売上が2~3か月落ちるようであれば、出店を止めるという趣旨の発言をしています。

その背景にあったのが、セブン‐イレブンはフランチャイズビジネスであり、本部だけが利益を上げればいいわけではないという考え方です。加盟店も利益を上げられなければ、フランチャイズチェーンとして持続的に成長することはできない、という考えです。

これは、現在のセブン‐イレブンが掲げる「共存共栄」という考え方にもつながっています。

現在もセブン‐イレブン・ジャパンは、公式に「加盟店・オーナーさんの繁栄なくして当社の繁栄もあり得ない」と説明しています。

つまり、鈴木氏の出店哲学は、

「店舗数を増やすこと」そのものが目的ではなく、既存店と加盟店が成長できる状態を維持しながら店舗網を拡大する

という考え方だったと捉えることができます。

鈴木氏は、既存店の売上が落ちるのであれば出店を止めるという考え方を示していました。

さらに、

本部だけが利益を上げればいいのではなく、フランチャイズである以上、加盟店も一緒に利益を上げなければならない。

という考え方です。

これは非常に重要だと思います。

つまり、出店そのものが目的だったのではなく、

既存店が成長することを前提として、店舗網を広げる。

という考え方です。

私は、この思想そのものは今でも重要だと思います。

ただし、問題は、

現在の店舗を取り巻く環境が、当時とは大きく変わっていることです。

現在は「売上の伸び」がそのまま利益になりにくい

現在の店舗経営では、以前とは違う問題が起きています。

私自身、店舗経営をしていて感じるのは、

売上は大きく伸びない。

一方で、

客数は減少する。

さらに、

人件費を中心とした店舗運営コストは上昇する。

その結果、

利益率が低下していく。

という構造です。

実際、セブン-イレブンの直近の既存店実績でも、売上が前年を上回る月がある一方で、客数が前年を下回る月が見られます。売上を客単価の上昇で補っている面もあります。

これは、

「お客様の人数を増やして売上を伸ばす」

という以前の成長モデルとは、少し違う状況です。

売上が伸びない。

客数も減る。

それでも店舗を維持するためのコストは上がる。

つまり、

「売上を増やせば、そのまま利益も増える」

という環境ではなくなっています。

人口減少時代に「店舗数を増やす」だけでは限界がある

人口が減少すれば、当然、お客様の総数も減っていきます。

もちろん、商品単価を上げたり、新しい需要を作ったりすることで売上を伸ばすことはできます。

しかし、

すべての店舗が毎年売上を伸ばし続ける

という前提で成長を考えることは、これからますます難しくなるでしょう。

だから私は、

「売上を増やすことだけが成長ではない」

と思っています。

売上が横ばいでも利益が増える。

客数が減っても利益を残せる。

少ない人数でも店舗を運営できる。

オーナーの負担を減らせる。

そして、働く人の待遇を改善できる。

これも、立派な成長です。

これまでの「店舗規模拡大型モデル」は転換期にある

これまでのコンビニは、

店舗数を増やす。

店舗面積を大きくする。

品揃えを増やす。

人を配置する。

そして、

売上を増やす。

という「規模の拡大」が大きな成長エンジンでした。

人口が増え、客数が増え、人も採用できる。

人件費も現在ほど高くない。

こうした環境では、店舗を大きくして売上を伸ばすことに合理性がありました。

しかし今は、

人口減少。

客数減少。

人件費上昇。

人手不足。

という環境です。

だからこそ、過去に成功した「規模を大きくすることで成長するモデル」は、転換期に入っているのではないでしょうか。

これから必要なのは「店舗規模」より「店舗精度」

そこで、私が最も重要だと考えているのが、

「店舗精度」

です。

店舗精度とは、

同じ売上でも、より少ない人員で、より少ないロスで、より高い利益を残せる店舗

だと考えています。

発注精度を高める。

廃棄を減らす。

欠品を減らす。

作業時間を減らす。

従業員一人あたりの生産性を高める。

オーナー自身の労働時間を減らす。

こうした改善によって、売上が大きく伸びなくても利益が増える。

これが人口減少時代の「成長」なのではないでしょうか。

人手不足は「採用」だけでは解決できない

現在、多くの店舗が人手不足に直面しています。

人件費を上げても、必要な人員を確保できない。

しかし、人口そのものが減少していく以上、

「もっと採用すれば解決する」

という方法には限界があります。

だからこそ、

「そもそも、なぜこの店舗運営にこれだけの人が必要なのか?」

というところから考える必要があります。

人を増やすことだけに頼る店舗から、

人に依存しすぎない店舗へ。

店舗そのものを変えていく必要があります。

生産性を上げて「コンビニ=最低賃金」から脱却する

ここは、これからのコンビニ経営で非常に重要なポイントだと思います。

人件費が上がると、

「人件費をどう抑えるか」

という発想になりがちです。

しかし、私は逆だと思っています。

生産性を上げることで、働く人の時給を上げる。

これを目指すべきではないでしょうか。

例えば、テクノロジーや店舗オペレーションの改善によって、これまで10人必要だった仕事を8人でできるようにする。

そこで生まれた余力を、単純な人件費削減で終わらせるのではなく、

残った従業員の待遇改善につなげる。

そうすれば、

生産性向上

↓

店舗利益の改善

↓

時給アップ

↓

人材を確保しやすくなる

↓

店舗のサービス・生産性がさらに向上する

という好循環を作ることができます。

私は、

「コンビニ=最低賃金で働く場所」

というイメージから脱却することも、これからのセブン-イレブンには必要だと思っています。

「最低賃金でも人を集める」のではなく、

「生産性が高いから、より高い時給を払える店舗」

を目指す。

これは、加盟店にとっても、働く人にとっても重要な改革です。

テクノロジーを「人を減らすため」だけに使わない

そのためには、テクノロジーへの投資が重要になります。

セルフレジ。

AI。

需要予測。

発注支援。

業務の自動化。

店舗オペレーションの効率化。

セブン-イレブンも省人化やAI活用などの取り組みを進めています。阿久津社長自身も、店舗負荷軽減と省人化投資の重要性を示しています。

重要なのは、

「テクノロジーを導入した」

ということではありません。

その結果として、

店舗の作業時間をどれだけ減らせるのか。

一人あたりの生産性をどれだけ高められるのか。

そして、

そこで生まれた利益を、加盟店と従業員にどう還元するのか。

ここまで考える必要があります。

省人化とは、

「人を減らして終わり」

ではありません。

「人の価値を高めるために、単純作業を減らす」

という考え方が重要なのではないでしょうか。

加盟店が成長できなければ、1,000店出店は続かない

ここで、阿久津社長の1,000店出店計画に戻ります。

私は、

1,000店出店そのものに反対しているわけではありません。

実際、セブン-イレブンは複数店経営や新規加盟の促進を通じて、さらなる出店と持続的成長を目指しています。

新しい商圏には、新しい店舗が必要です。

問題は、

「その1,000店舗を、誰が、どんな収益構造で運営するのか」

です。

店舗を出すのは本部です。

しかし、その店舗を毎日運営するのは加盟店です。

人を採用する。

教育する。

シフトを組む。

商品を管理する。

お客様に対応する。

そして利益を残す。

それを担うのは加盟店です。

だからこそ、

既存加盟店が成長できない状態で、新しい加盟者が増えていくのか。

ここは非常に重要だと思います。

本部の「店舗数の成長」と加盟店の「利益の成長」は違う

1,000店舗増えれば、本部にとっては大きな成長です。

しかし、

加盟店1店舗あたりの利益が減ってしまったらどうでしょうか。

店舗数は増えている。

チェーン全体の売上も増えている。

それでも加盟店が、

「以前より忙しくなったのに、利益が残らない」

となれば、長期的な成長にはつながりません。

これから重視すべきなのは、

店舗数だけではなく、加盟店1店舗あたりの利益。

さらに、

従業員1人あたりの生産性。

そして、

オーナー1人あたりの労働負担。

ではないでしょうか。

本部の成長と加盟店の成長。

この二つを同時に実現することが必要です。

1,000店舗を増やす前に「1店舗を強くする」

私は、これからの出店戦略には順番が重要だと思っています。

まず、

既存店舗の精度を高める。

↓

生産性を高める。

↓

加盟店の利益を改善する。

↓

働く人の時給を上げられる店舗にする。

↓

オーナーが「このビジネスを続けたい」と思える環境を作る。

↓

新しく加盟したい人が増える。

↓

成功した店舗モデルを新規出店へ展開する。

この順番です。

つまり、

1,000店舗を先に作るのではなく、1店舗で成功できるモデルを作り、それを1,000店舗に広げる。

私は、この考え方がこれからの時代には重要だと思います。

「売上を増やす成長」から「利益を残す成長」へ

これからのコンビニ経営では、

売上が増えない=成長していない

という考え方を変える必要があります。

売上が横ばいでも、

利益が増える。

人件費の上昇を吸収できる。

必要な人員を減らせる。

働く人の時給を上げられる。

オーナーの労働時間を減らせる。

それでも、お客様にとって便利な店舗であり続ける。

これなら、人口減少社会でも持続的に成長できます。

私は、

「売上」から「店舗あたりの利益」へ。

そして、

「人件費削減」から「生産性向上による賃金アップ」へ。

成長の考え方そのものを変える必要があると思います。

鈴木敏文氏の出店哲学を、次の時代へ

鈴木敏文氏の出店哲学で重要なのは、

「出店すれば規模が大きくなるから出店する」

という単純な話ではありません。

既存店の売上を伸ばし、加盟店も利益を上げられる状態を維持しながら、店舗網を広げる。

だからこそ、

「既存店の成長」と「新規出店」はセットだった

のだと思います。

今の時代に必要なのは、その思想を否定することではありません。

むしろ、

次の時代に合わせて進化させること

ではないでしょうか。

これからは、

「売上が上がるから出店する」

だけではなく、

「加盟店が成長できる仕組みがあるから出店できる」

という状態を作る。

そして、

「1店舗の成功モデルを、次の1,000店舗へ展開する」。

これが、これからの出店戦略ではないでしょうか。

結論――1,000店舗を増やす前に、1店舗の価値を高める

阿久津社長の1,000店出店計画。

私は、1,000という数字そのものに反対しているわけではありません。

ただ、

人口が減少していく社会で、店舗数や店舗面積を増やし、売上を伸ばし続けることだけを「成長」と考えるのは、もう限界があるのではないか。

そう感じています。

これから最優先すべきなのは、

「店舗規模を増やすこと」ではなく、「店舗精度を高めること」。

そして、

生産性を高め、その利益を加盟店と働く人に還元できるビジネスモデルへ変換すること。

だと思います。

人件費が上がったから利益が減る。

人が採用できないから店舗が回らない。

そんな状態から、

生産性を上げる。

↓

利益を増やす。

↓

時給を上げる。

↓

人材を確保する。

↓

さらに店舗精度を高める。

という好循環へ変えていく。

そのうえで、

加盟店が成長する。

↓

新しい加盟者が増える。

↓

新規出店が進む。

↓

セブン-イレブン全体が成長する。

私は、この順番が重要だと思います。

だからこそ、

1,000店舗を増やす前に、1店舗をもっと強くする。

そして、

1店舗で成功できるビジネスモデルを作り、それを1,000店舗に広げる。

これこそが、人口減少時代のセブン-イレブンに求められる「次の成長」なのではないでしょうか。

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