はじめに
2026年度の最低賃金引き上げが話題になっています。
毎年この時期になると、「人件費はどれくらい増えるのか」「利益はどれくらい減るのか」と不安に感じるコンビニオーナーも多いのではないでしょうか。
しかし、ニュースでは「最低賃金が○円上がる」と報じられるだけで、それが実際の店舗利益へどの程度影響するのかまでは分かりません。
そこで今回は、私が開発している**SEMC(セブンイレブンマネジメントカリキュレーター)**を使い、最低賃金引き上げによる利益への影響をシミュレーションしてみました。
なお、本記事執筆時点では、静岡県を含む都道府県別最低賃金は正式決定前です。
今回は、中央最低賃金審議会の目安を参考に、
静岡県最低賃金
1,097円 → 1,153円(+56円)
を前提として試算しています。
シミュレーション条件
今回の店舗条件は次のとおりです。
店舗条件
- 契約タイプ:Cタイプ
- 加盟年数:5年以上
- 一号店
- 24時間営業
- 地域:静岡県
- 日販65万円
- 売上総利益率31%
最低賃金だけの影響を比較するため、
売上・営業日数・営業時間・労働時間・その他経費はすべて同条件としています。
変更したのは
パート・アルバイトの平均時給のみ
です。
人件費はどう計算されるのか
最低賃金が上がると、人件費は次の考え方で増加します。
人件費 = 平均時給 × 総労働時間
つまり、労働時間が同じであれば、
時給が上がった分だけ、人件費も増加します。
そして、その増加した人件費は、そのまま利益を押し下げることになります。
今回のシミュレーションでは、
利益 = 売上総利益 − 人件費 − その他経費
という考え方で試算しています。
そのため、売上やその他経費が同じ条件であれば、
人件費が7万円増えれば、利益も約7万円減少する
という結果になります。


オーナー昼勤務
(画像)
結果
| 項目 | 現在 | 最低賃金引き上げ後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 平均時給 | 1,184円 | 1,248円 | +64円 |
| トータル人件費 | 1,339,907円 | 1,411,971円 | +72,064円 |
| 最終利益 | 714,218円 | 642,154円 | ▲72,064円 |
| オーナー夫妻実質時給 | 2,569円 | 2,310円 | ▲259円 |
オーナー夫妻実質時給も計算してみた
私は利益だけではなく、
オーナー夫妻が働いた時間に対して、どれだけ利益を生み出したのか
も重要だと考えています。
そのため今回は、
オーナー夫妻実質時給
= 最終利益 ÷ オーナー夫妻総労働時間
という指標も算出しました。
この数値を見ることで、
単に利益だけではなく、
オーナー夫妻の時間当たりの経営効率
も比較できます。
オーナー深夜勤務


昼勤務と深夜勤務比較
ここでは
- トータル人件費差
- 利益差
- オーナー夫妻実質時給差
を比較します。
今回のシミュレーションでは、
最低賃金が約56円引き上げられると、
店舗利益は月間約7万円減少する結果となりました。
年間では80万円を超える利益減少になります。
さらに、
同じ売上・同じ営業時間・同じ労働時間でも、
オーナーがどの時間帯を担当するかによって、
利益や人件費には約3万5千〜3万7千円の差が生じることも分かりました。
つまり、
最低賃金の上昇は避けられませんが、その影響を数字で把握することはできます。
次回は、この減少した利益を取り戻すためには、
売上を何%伸ばせばよいのか。
さらに、
消費者物価指数3%を前提にすると、本当に店舗努力だけで利益を維持できるのか。
前半の記事では、最低賃金の引き上げによって、店舗利益が月間約7万円、年間では80万円以上減少する可能性があることをシミュレーションしました。
しかし、ここで終わってしまっては経営改善にはつながりません。
経営者として本当に考えなければならないのは、
「減少した利益をどうやって取り戻すのか」
ということです。
今回は、最低賃金引き上げ後も利益を維持するためには、どれくらい売上を伸ばす必要があるのかをSEMCでシミュレーションしてみました。
利益を維持するためには売上をどれくらい増やせばよいのか
最低賃金引き上げ後の利益を、引き上げ前の水準まで戻すには、どれだけ売上を伸ばす必要があるのでしょうか。
今回は売上以外の条件をすべて同じにして試算しました。

シミュレーション結果
項目 最低賃金引き上げ後 売上改善後
日販 650,000円 680,000円
月間売上 1,950万円 2,040万円
最終利益 679,311円 743,886円
③ 今回のシミュレーションまとめ
| 比較項目 | 結果 |
|---|---|
| 月間利益減少 | ▲72,064円 |
| 年間利益減少 | ▲864,768円 |
| 利益維持に必要な売上 | +4.6% |
| 消費者物価指数(想定) | +3.0% |
| 店舗努力で補う必要がある不足分 | +1.6% |
日販を3万円増やすことで、利益は最低賃金引き上げ前の水準に近づく結果となりました。
売上は何%伸ばす必要があったのか
今回のシミュレーションでは、
日販は
650,000円
↓
680,000円
となりました。
計算すると、
約4.6%の売上アップ
が必要になります。
つまり、人件費が増えた分を利益で吸収するためには、今回の条件では約4.6%の売上増加が一つの目安となりました。
消費者物価指数3%で考える
ここ数年、日本では物価上昇が続いています。
仮に消費者物価指数(CPI)が3%上昇し、その影響で売上も3%伸びたとします。
日販65万円の場合、
65万円 × 103%
=669,500円
となります。
しかし、利益を維持するために必要だった日販は68万円です。
つまり、
68万円 − 66万9,500円
=10,500円不足
率にすると、
約1.6%不足
という計算になります。
つまり、物価上昇だけでは利益を維持することは難しく、残り約1.6%は店舗の経営努力で補う必要があります。
しかし現実はもっと厳しい
ここで一つ考えなければならないことがあります。
今回必要だった4.6%という売上アップは、
客数が前年並みに維持できること
を前提とした数字です。
しかし現実には、
人口減少
競合店の出店
消費行動の変化
来店客数の減少
などによって、客数が前年を下回る店舗も少なくありません。
さらに、売上の伸びが消費者物価指数3%を下回れば、その不足分はさらに大きくなります。
つまり、
店舗努力だけでは吸収しきれない可能性も十分ある
ということです。
だからこそ、最低賃金の引き上げは単なる人件費の問題ではなく、店舗経営全体を見直すきっかけとして考える必要があります。
不足分は何で補うのか
残り約1.6%を埋める方法は、一つではありません。
例えば、
発注精度を高めて廃棄ロスを削減する
欠品を減らして販売機会を逃さない
新商品の販売強化
予約商品やギフト販売の強化
売場改善による客単価アップ
作業効率の改善
人員配置の最適化
一つひとつの改善は小さくても、それらを積み重ねることで利益を守ることができます。
足し算だけの経営は通用しない
私は、現在のコンビニ経営は経営判断の取捨選択を迫られる時代に入ったと感じています。
以前のように、
「売上を増やす」
「商品を増やす」
「人を増やす」
という足し算だけの経営では、利益を維持することは難しくなっています。
これからは、
何を伸ばすのか
何を減らすのか
何をやめるのか
何に投資するのか
という「選択」の積み重ねが、利益を左右する時代です。
数字と情報が経営判断を支える
私は、これからのコンビニオーナーには数字に強い経営者であることが求められると思っています。
利益はいくら減ったのか。
利益を維持するためには売上を何%伸ばす必要があるのか。
その不足分を何で補うのか。
こうしたことを数字で考え、行動へ移すことが重要です。
さらに、店舗の数字だけではなく、セブン&アイ・ホールディングスやセブン‐イレブン・ジャパンのIR情報にも目を通し、本部がどのような経営方針や戦略を描いているのかを理解することも欠かせません。
店舗の数字と本部の方向性を照らし合わせながら、
自店にとって最適な経営判断を行うこと。
それが、これからのコンビニオーナーに求められる力だと私は考えています。
私が伝えたいこと
今回のシミュレーションを通して改めて感じたのは、現在のコンビニ経営はかなりの経営努力を続けてようやく現状維持ができるかどうかという時代に入っているということです。
もし毎年80万円以上利益が減少し、それを改善できなければ、設備投資や修繕に回せる資金は年々減少し、店舗の競争力は徐々に低下していきます。
だからこそ、経験や勘だけではなく、数字と情報を武器に経営判断を行うことが重要です。
私は、生き残る店舗とは、「売上を増やすこと」だけを考える店舗ではありません。
数字を分析し、環境の変化を読み取り、必要な取捨選択ができる店舗。
そんな店舗が、これからの時代を生き残っていくのではないかと考えています。
~数字が示す現実~
今回のシミュレーションでは、最低賃金の引き上げによって減少した利益を維持するためには、日販を約4.6%伸ばす必要があるという結果になりました。
一方で、近年は消費者物価指数(CPI)が上昇を続けています。
「物価が上がれば売上も伸びるのではないか」と考える方もいるかもしれません。
しかし、実際のセブン‐イレブン・ジャパンのIR資料を見ると、必ずしもそうとは言えません。
過去3年間の全店平均日販(IR資料)
| 年度 | 全店平均日販 |
|---|---|
| FY2022 | 67.0万円 |
| FY2023 | 69.1万円 |
| FY2024 | 69.2万円 |
| FY2025 | 69.9万円 |
※セブン‐イレブン・ジャパン IR資料より。
過去3年間は物価上昇が続いた一方で、全店平均日販の伸びは緩やかでした。
つまり、消費者物価指数と同じペースで売上が伸び続けているわけではないということです。
今回のシミュレーションでは、利益を維持するために約4.6%の売上増加が必要という結果でした。
しかし、IRの数字を見る限りでは、今回のシミュレーション以上に厳しい経営環境になる店舗も十分に考えられます。
だからこそ、私はこれからのコンビニ経営には、
「経験」や「勘」だけではなく、
数字を前提とした経営計画
が不可欠だと考えています。
利益はいくら減るのか。
利益を維持するには売上を何%伸ばす必要があるのか。
不足分は何で補うのか。
さらに、本部のIR資料や経営方針を確認しながら、自店の数字と照らし合わせて経営判断を行う。
これからは、**「足し算だけの経営」ではなく、「取捨選択の経営」**が求められる時代です。
私は、生き残る店舗とは、売上だけを追いかける店舗ではなく、
数字を分析し、情報を読み取り、その中から最適な選択ができる店舗だと考えています。
私は今回、
最低賃金の引き上げをきっかけにシミュレーションを行いました。
しかし、本当に伝えたかったことは、
「最低賃金が何円上がるか」ではありません。
重要なのは、
その結果、
自店の利益がいくら減るのか。
利益を維持するためには、
売上を何%伸ばす必要があるのか。
その不足分を何で補うのか。
そして、
その経営計画が本当に実現可能なのか。
そこまで数字で考えることです。
過去3年間のIR資料を見ても、物価上昇が続く中で平均日販は大きく伸びたとは言えません。
つまり、今回のシミュレーションよりも厳しい経営環境になる店舗も十分考えられます。
だからこそ、
経験や勘だけではなく、数字を前提に経営計画を立てること。
そして、
店舗の数字だけではなく、
本部のIR資料や経営方針にも目を通し、
これから何が起こるのかを考えながら経営判断を行うこと。
私は、それがこれからのコンビニオーナーに最も求められる力だと考えています。
セブン&アイ・ホールディングス IR(国内コンビニ事業データ)
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