「お客様は神様です」
サービス業では、昔から使われてきた言葉です。
コンビニでも「お客様第一」という言葉は非常に重要です。
しかし、コンビニ経営をしていると、ふと考えることがあります。
お客様のためなら、接客やサービスは多ければ多いほどいいのでしょうか?
私は、必ずしもそうではないと思っています。
コンビニは高級旅館とは違います。
毎日の生活の中で利用される、営利目的の事業です。
しかも現在は、人手不足や人件費の上昇という問題もあります。
だからこそ、これからのコンビニ経営では、
「どれだけ接客するか」ではなく、「どうすればお客様に最適な価値を提供できるか」
を考える必要があるのではないでしょうか。
- 「お客様は神様です」の本来の意味とは
- 「お客様を大切にする」と「何でも要求に応える」は違う
- プライベートのおもてなしと営利事業のコンビニは違う
- 接客の質を上げればコストも増える
- コンビニは高級旅館ではなく「日常使い」の店
- 加賀屋は「人によるおもてなし」で価値を高める
- Amazonは「人を介在させない仕組み」で価値を高める
- 加賀屋とAmazonは正反対でも「お客様の価値」を追求している
- コンビニは「人とテクノロジー」を使い分けて価値を高める
- 「人を減らすこと」と「サービスを減らすこと」は同じではない
- コンビニが目指すべきなのは「接客の最大化」ではなく「顧客価値の最大化」
- コンビニに必要なのは「最高のサービス」ではなく「最適なサービス」
- 適正な利益を残すことも「お客様第一」である
- 従業員を守ることも「お客様を守る」ことにつながる
- これからのコンビニは「人」と「テクノロジー」の融合へ
- 「お客様は神様」から「お客様に選ばれる店」へ
「お客様は神様です」の本来の意味とは
「お客様は神様です」という言葉は、歌手の三波春夫さんの言葉として広く知られています。
しかし、本来の意味は、
「お客様が神様だから、何を言われても従わなければならない」
というものではありません。
舞台に立つ側が、お客様に最高の芸を届けるために、自分自身を律するという心構えから生まれた言葉です。
ところが長い年月の中で、
「お客様の言うことは絶対」
「お客様の要求には応えなければならない」
という意味で使われることも増えていきました。
本来の「お客様を大切にする」という考え方と、
「お客様の要求を何でも受け入れる」
という考え方が混同されてしまったのではないでしょうか。
「お客様を大切にする」と「何でも要求に応える」は違う
お客様を大切にすることは、商売において非常に重要です。
しかし、
お客様を大切にすることと、お客様の要求をすべて受け入れることは同じではありません。
店舗には、守らなければならないルールがあります。
従業員にも、守らなければならない環境があります。
そして、事業として利益も残さなければなりません。
一部のお客様への過剰なサービスによって、他のお客様や従業員に負担がかかるのであれば、それは本当に「お客様第一」と言えるのでしょうか。
プライベートのおもてなしと営利事業のコンビニは違う
例えば、プライベートで友人を自宅に招くとします。
料理を用意する。
飲み物を準備する。
部屋をきれいにする。
相手が喜んでくれるなら、さらに何かしてあげる。
多少の手間や費用がかかっても、
「せっかく来てくれたのだから、楽しんでもらいたい」
と思うでしょう。
これは純粋なおもてなしです。
しかし、コンビニは違います。
コンビニは、
商品やサービスを提供し、その対価をいただく営利事業です。
人件費、商品原価、水道光熱費、設備費など、さまざまなコストが発生します。
だから、
「お客様のためだから」という理由だけで、サービスを無制限に増やすことはできません。
接客の質を上げればコストも増える
接客をより丁寧にしようとすれば、人が必要になります。
スタッフを増やす。
教育時間を増やす。
一人のお客様への対応時間を長くする。
こうした取り組みには、すべてコストが発生します。
つまり、
接客の質を上げることは無料ではありません。
人件費が増えれば、店舗の利益は減ります。
利益を維持するためには、別のコストを削る、売上を増やす、あるいは場合によっては価格に反映する必要があります。
そこで考えたいのが、
「その接客コストを、お客様は本当に価値として感じているのか?」
ということです。
コンビニは高級旅館ではなく「日常使い」の店
ここが、高級旅館などとの大きな違いです。
高級旅館では、
「特別な時間を過ごしたい」
という目的があります。
料理、空間、接客、細かな気配り。
そこに価値を感じて、お金を払います。
一方、コンビニは毎日の生活の中で利用されます。
朝、出勤前にコーヒーを買う。
昼休みに弁当を買う。
仕事帰りに飲み物を買う。
必要な商品を数点購入する。
ATMを利用する。
つまりコンビニでは、
「特別な体験」より「日常の便利さ」
が大きな価値になります。
加賀屋は「人によるおもてなし」で価値を高める
ここで、石川県・和倉温泉の老舗旅館、加賀屋を考えてみます。
加賀屋のような旅館では、人による細かな気配りや心配りそのものが大きな価値になります。
お客様が何を求めているのかを考える。
必要なことを先回りして対応する。
細かな部分まで気を配る。
つまり、
人によるおもてなしで価値を高める。
これが旅館という業態に合ったサービスの形です。
ただし、コンビニがそのまま同じサービスを目指せばいいわけではありません。
なぜなら、
旅館とコンビニでは、お客様が求める価値が違うからです。
Amazonは「人を介在させない仕組み」で価値を高める
一方、まったく違う方法で価値を高めているのがAmazonです。
Amazonで買い物をするとき、基本的に店員から接客を受ける必要はありません。
自分で商品を検索する。
価格を比較する。
レビューを見る。
注文する。
決済する。
商品が届く。
それでもAmazonは多くの人に利用されています。
なぜでしょうか。
それは、
「接客がないこと」が便利だからです。
店員を探す必要がない。
営業時間を気にする必要がない。
大量の商品を自分で比較できる。
自宅まで届けてもらえる。
Amazonは、
人を介在させない仕組みによって、お客様の利便性を高めています。
加賀屋とAmazonは正反対でも「お客様の価値」を追求している
加賀屋とAmazonは、一見すると正反対です。
加賀屋は、
人によるおもてなしで価値を高める。
Amazonは、
人を介在させない仕組みで価値を高める。
しかし、本質は同じです。
どちらも、
お客様が求める価値を提供すること
を目指しています。
人を使うことが目的ではありません。
人を減らすことも目的ではありません。
お客様にとって価値のあるサービスを、最適な方法で提供すること。
ここが共通しています。
コンビニは「人とテクノロジー」を使い分けて価値を高める
では、コンビニはどうでしょうか。
私は、
人とテクノロジーを使い分けること
が重要だと思っています。
人による接客が必要な場面では、人が対応する。
一方で、人がやらなくてもいい仕事は、機械やシステムに任せる。
例えば、
- セルフレジ
- セルフ決済
- 発注システム
- 在庫管理
- デジタルサイネージ
などです。
そして、
人にしかできない仕事に、人を集中させる。
これが、これからのコンビニ経営では重要になるのではないでしょうか。
「人を減らすこと」と「サービスを減らすこと」は同じではない
省人化という言葉には、
「人を減らしてサービスを悪くする」
というイメージがあるかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。
セルフレジを使いたいお客様にとっては、
「店員を待たずに自分で会計できる」
ことがサービスです。
Amazonを利用するお客様にとっても、
「店員に相談しなくても、自分で商品を選んで購入できる」
ことが便利なのです。
つまり、
人を介在させないことが、サービスの向上になる場合もあります。
コンビニが目指すべきなのは「接客の最大化」ではなく「顧客価値の最大化」
これからのコンビニ経営で重要なのは、
どれだけ接客したか
ではありません。
お客様がどれだけ価値を感じたか
です。
丁寧な接客を求めるお客様には、人が対応する。
早く会計を済ませたいお客様には、セルフレジを用意する。
商品を探して困っているお客様には、スタッフがサポートする。
すべてのお客様に同じサービスを提供する必要はありません。
お客様が求める価値に合わせて、サービスの形を変える。
これが「顧客価値の最大化」なのだと思います。
コンビニに必要なのは「最高のサービス」ではなく「最適なサービス」
最高のサービスには、それだけコストがかかります。
しかし、コストをかけた分だけ、お客様の満足度が上がるとは限りません。
コンビニでは、
「丁寧な接客に時間をかける」
よりも、
「会計を早く終わらせる」
ことのほうが喜ばれる場合もあります。
だからこそ、
お客様が求める価値と、店舗が負担するコストのバランス
を考える必要があります。
これが営利事業としての経営です。
適正な利益を残すことも「お客様第一」である
お客様第一だからといって、利益を犠牲にしていいわけではありません。
店舗に利益が残るからこそ、
設備を修繕できる。
新しい機械を導入できる。
従業員の待遇を改善できる。
商品を充実させられる。
そして、店舗を長く営業できます。
つまり、
適正な利益を確保することも、お客様にサービスを提供し続けるために必要な条件です。
お客様と利益は、対立するものではありません。
従業員を守ることも「お客様を守る」ことにつながる
お客様の要求を何でも受け入れる。
接客をどこまでも丁寧にする。
その結果、従業員の負担が増えてしまえば、長続きしません。
人手不足の時代では、なおさらです。
従業員が疲弊する。
離職する。
人手不足になる。
残ったスタッフの負担が増える。
そして結果的に、お客様へのサービスまで低下してしまいます。
だからこそ、
お客様を大切にすることと、従業員を守ることはセットです。
これからのコンビニは「人」と「テクノロジー」の融合へ
これからのコンビニに必要なのは、
人を増やすことでも、人をなくすことでもありません。
重要なのは、
「どの仕事を人がやり、どの仕事をテクノロジーに任せるのか」
を考えることです。
人がやるべき仕事。
機械がやるべき仕事。
お客様自身にやってもらったほうが便利な仕事。
これらを分けていく。
そうすることで、人件費が上昇しても店舗全体の生産性を高めることができます。
そして、人にしかできない仕事に人を集中させる。
「お客様は神様」から「お客様に選ばれる店」へ
「お客様は神様だから、何でもする」。
これでは、これからのコンビニ経営は続きません。
加賀屋のように、
人によるおもてなしで価値を高める方法があります。
Amazonのように、
人を介在させない仕組みで価値を高める方法があります。
そしてコンビニには、
人とテクノロジーを使い分けて価値を高める方法があります。
大切なのは、接客の量を増やすことではありません。
お客様が本当に必要としている価値を見極めること。
そして、その価値を適正なコストで提供し、利益を残しながら長く続けることです。
コンビニは高級旅館ではありません。
日常生活の中で利用される店だからこそ、
「最高のおもてなし」より「最適なおもてなし」。
「接客の量」を増やすのではなく、
「お客様が感じる価値」を高める。
そして、
「お客様を神様として扱う」のではなく、「お客様に選ばれ続ける店をつくる」。
私は、これが人口減少・人手不足時代のコンビニ経営における、本当の「お客様第一」なのだと思います。
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