コンビニ経営にとって、これから避けて通れない問題の一つが人件費の上昇です。
最低賃金が引き上げられるたびに、店舗の人件費は増えていきます。
しかし、本当に問題なのは、単純に「人件費が増えること」だけではありません。
人件費が増えれば、これまでと同じ利益を残すために、これまで以上の売上が必要になるからです。
そして、売上を増やすことが難しい店舗では、最終的にオーナー自身が働いて補うことになります。
しかし、
オーナーには1日24時間しかありません。
さらに怖いのは、利益が減る前に、オーナーの「余力」まで削られていくことです。
今回は、人件費上昇が店舗経営にどのような影響を与えるのか、そしてその先にある「オーナーの余力」について考えてみます。
※今回のシミュレーションはCタイプ契約の店舗を前提としています。Aタイプはチャージ構造が異なるため、今回とは結果が変わります。Aタイプについては別の記事で詳しく検証します。
- 損益分岐点は店舗ごとに違う
- 最低賃金5%上昇で月間人件費150万円なら7.5万円増える
- 人件費が増えると同じ利益を維持するための日販も上がる
- 問題は損益分岐点が毎年上がっていくこと
- 今、黒字だから10年後も大丈夫とは限らない
- 人口減少時代に毎年日販を増やせるのか
- 低売上店ほど人件費上昇の影響を受けやすい
- 「人件費が高いならオーナーが働く」には限界がある
- 本当に怖いのは利益より先にオーナーの余力がなくなること
- オーナーの余力がなくなって良い店舗を作れるのか
- 「忙しい」とは心をなくすと書く
- 人海戦術には限界がある
- これからは「人が頑張る」から「仕組みで効率化する」へ
- 企業が生き残るには時代の変化に合わせて変わらなければならない
- 変わるべきなのは企業だけではない
- オーナーの努力を生産性に置き換える
- まとめ|問題は損益分岐点が上がり続けること
損益分岐点は店舗ごとに違う
まず、最初にお伝えしておきたいことがあります。
コンビニの損益分岐点は、すべての店舗で同じではありません。
オーナーがどれだけ店舗に入るのか。
家族がどれだけ働くのか。
スタッフを何人配置するのか。
24時間営業なのか。
営業時間をどうするのか。
売上や粗利がどのくらいあるのか。
その他の経費がどのくらいかかるのか。
こうした条件によって、店舗ごとの損益分岐点は変わります。
したがって、
「日販○万円あれば大丈夫」
と、一律に決めることはできません。
しかし、今回問題にしたいのは、損益分岐点がいくらなのかということではありません。
それぞれの店舗の損益分岐点が、年々上がっていることです。
最低賃金5%上昇で月間人件費150万円なら7.5万円増える
今回は、Cタイプの店舗を一つのモデルとして考えてみます。
月間人件費が150万円の店舗で、人件費が5%上昇したとします。
150万円 × 5% = 7.5万円
毎月7.5万円の人件費増加です。
年間では、
7.5万円 × 12か月 = 90万円
になります。
もちろん、実際には最低賃金が5%上昇したからといって、店舗の人件費がそのまま5%増えるとは限りません。
ここでは、人件費が5%増加した場合のモデルケースとして考えます。
問題は、この増加分をどうやって吸収するかです。
人件費が増えると同じ利益を維持するための日販も上がる
売上を増やせば、人件費の上昇分を吸収できます。
しかし、コンビニでは売上が増えた分が、そのまま利益になるわけではありません。
売上が増えれば粗利益も増えますが、Cタイプでは本部チャージも増加します。
そこで、今回のモデル店舗でシミュレーションしてみます。
日販70万円の場合
- 月間売上:約2,100万円
- 粗利益:約651万円
- 人件費:約146.6万円
- 最終利益:約95.6万円
ここで人件費が上昇すると、そのままでは利益が減少します。
そこで、日販を、
70万円 → 73万円
へ3万円増やしてみます。
すると、
- 月間売上:約2,190万円
- 粗利益:約678.9万円
- 人件費:約153.9万円
- 最終利益:約95.9万円
となりました。
今回のCタイプのモデルでは、
人件費が約7.3万円増えても、日販を約3万円増やすことで、現在とほぼ同じ利益を維持できる
という結果になりました。
ここで重要なのは、
「Cタイプなら日販3万円を増やせばいい」
という話ではありません。
店舗によって条件が違うため、必要な売上も変わります。
重要なのは、
人件費が上昇すると、現在と同じ利益を維持するために必要な売上水準も上昇する
ということです。
問題は損益分岐点が毎年上がっていくこと
今回のシミュレーションでは、Cタイプのモデル店舗で、人件費5%上昇に対して日販約3万円の上積みが必要になりました。
仮に、これと同じ状況が毎年続くと単純化して考えてみます。
現在の日販70万円なら、
| 年数 | 同じ利益を維持するための必要日販 |
|---|---|
| 現在 | 70万円 |
| 1年後 | 73万円 |
| 2年後 | 76万円 |
| 3年後 | 79万円 |
| 4年後 | 82万円 |
| 5年後 | 85万円 |
| 6年後 | 88万円 |
| 7年後 | 91万円 |
| 8年後 | 94万円 |
| 9年後 | 97万円 |
| 10年後 | 100万円 |
となります。
もちろん、これは将来の予測ではありません。
毎年同じ条件で日販3万円の上積みが必要になると仮定した単純なシミュレーションです。
実際には、時給、粗利率、チャージ、営業時間、廃棄、光熱費などによって結果は変わります。
それでも、この数字から見えてくることがあります。
問題は、損益分岐点がいくらなのかではありません。
その損益分岐点が、毎年上昇していることです。
今、黒字だから10年後も大丈夫とは限らない
現在、日販70万円で利益が出ている。
だから大丈夫。
本当にそうでしょうか。
今年の人件費で利益が出ていても、来年、人件費が上がれば状況は変わります。
さらに、その翌年も上がる。
そのたびに、
「今と同じ利益を出すために必要な売上」
が上がっていきます。
つまり、
今の利益ではなく、将来も同じ利益を生み出せる店舗なのかを考える必要がある。
これからのコンビニ経営では、現在の損益だけを見るのではなく、損益分岐点がどの方向に動いているのかを見ることが重要になると思います。
人口減少時代に毎年日販を増やせるのか
ここで、さらに大きな問題があります。
必要な売上は上がっていく。
しかし、日本は人口減少時代です。
特に地方では、
- 商圏人口の減少
- 高齢化
- 人口流出
- 競合店との競争
- 消費者の節約志向
などによって、売上を伸ばすことが簡単ではありません。
つまり、
必要な売上は上がっていくのに、売上を増やす環境は厳しくなっている。
これが、低売上店にとって大きな問題になります。
低売上店ほど人件費上昇の影響を受けやすい
高売上店であれば、売上を増やすことで人件費上昇をある程度吸収できます。
しかし、低売上店ではそう簡単にはいきません。
売上が伸びない。
それでも、店舗を運営するためには一定の人員が必要です。
その結果、
売上は横ばい
↓
人件費は上昇
↓
利益は減少
という状況になりやすくなります。
そして利益を維持するためにオーナー自身がシフトに入れば、今度はオーナーの時間が削られていきます。
「人件費が高いならオーナーが働く」には限界がある
人件費が上がった。
だったらオーナーが働けばいい。
実際、この方法で利益を守ってきた店舗もあると思います。
しかし、この方法には明確な限界があります。
オーナーには1日24時間しかありません。
スタッフのシフトを減らしてオーナーが働く。
人が足りなければオーナーが働く。
利益が減れば、さらにオーナーが働く。
一時的には数字を合わせられても、オーナーの労働時間を無限に増やすことはできません。
睡眠時間を削ることはできても、
1日24時間を25時間にすることはできないのです。
本当に怖いのは利益より先にオーナーの余力がなくなること
私は、ここがこれからのコンビニ経営で最も重要な問題だと思っています。
最低賃金が上がる。
人件費が増える。
利益が減る。
その利益を取り戻すためにオーナーが働く。
すると、オーナーの時間がなくなる。
そして少しずつ削られていくのが、
オーナーの「余力」です。
余力とは、お金だけではありません。
- スタッフと話す時間
- 新人を教育する時間
- 店舗を改善する時間
- お客様を見る余裕
- 新しいことを考える時間
- 将来の経営を考える時間
- 家族と過ごす時間
- 自分自身が休む時間
これらもすべて、経営者にとって大切な資源です。
オーナーの余力がなくなって良い店舗を作れるのか
ここで、一度立ち止まって考える必要があります。
オーナーが毎日ギリギリまで働いている。
休みも少ない。
人件費を抑えるために、自分がシフトを埋める。
売上を維持するために、さらに仕事を増やす。
そんな状態で、
お客様にとって良い店舗を作れるでしょうか。
スタッフにとって良い職場環境を提供できるでしょうか。
責任感の強いオーナーほど、自分が頑張って解決しようとするかもしれません。
しかし、人間には限界があります。
余裕がなくなれば、スタッフとのコミュニケーションにも影響します。
教育に時間をかけることも難しくなります。
店舗を改善することも後回しになります。
そして何より、
経営者自身が疲弊してしまいます。
「忙しい」とは心をなくすと書く
「忙しい」という字は、
「心」を「亡くす」
と書きます。
この言葉は、コンビニ経営にも考えさせられるものがあります。
売上を追う。
人件費を抑える。
オーナーが働く。
休みを減らす。
さらに売上を追う。
気がつけば、
店舗を良くするために経営していたはずなのに、店舗を維持するだけで精一杯になっている。
これでは本末転倒です。
お客様に喜んでもらうこと。
スタッフが働きやすい環境を作ること。
地域に必要とされる店を作ること。
そのためには、オーナー自身にも時間と心の余裕が必要です。
人海戦術には限界がある
これまでのコンビニ経営では、
売上を増やす
↓
人を増やす
↓
仕事を回す
という人海戦術が成立してきました。
しかし、人手不足と人件費上昇が続けば、同じ方法では利益を確保することが難しくなります。
だからといって、
「人が足りなければオーナーが働けばいい」
にも限界があります。
人を増やすにも限界がある。
オーナーが働くにも限界がある。
売上を増やすにも限界がある。
だからこそ、次に必要になるのが、
生産性を上げる経営です。
これからは「人が頑張る」から「仕組みで効率化する」へ
これから必要なのは、
「もっと働く」から「もっと生産性を上げる」への転換
ではないでしょうか。
同じ人数で、より多くの仕事をこなす。
同じ労働時間で、より多くの売上を作る。
同じ売上でも、より少ない労働時間で店舗を運営する。
そして、生産性を高めた分をスタッフの待遇改善にもつなげる。
そのためには、テクノロジーの活用も重要になってくると思います。
私は、セブン-イレブンとソフトバンクなどの業務提携によって、今後、店舗運営の効率化がどこまで進んでいくのか、現役オーナーとして期待しています。
もちろん、これは現時点での私の勝手な希望なのかもしれません。
それでも、人件費が上がり続けるのであれば、人の労働力だけに頼らない店舗運営へ変えていく必要があります。
企業が生き残るには時代の変化に合わせて変わらなければならない
そもそも企業は、同じことを永遠に続けていくことはできません。
人口が増えていた時代と、人口が減少していく時代。
人が十分に集まった時代と、人手不足の時代。
低い人件費で店舗を運営できた時代と、人件費が上昇していく時代。
環境が変われば、経営の方法も変わらなければなりません。
これはセブン-イレブンだけの問題ではありません。
企業には、時代の変化に合わせて自らを変化させていくことが求められています。
変わらないことが安定なのではなく、
変化し続けることこそ、生き残るための条件なのかもしれません。
変わるべきなのは企業だけではない
そして、これは私たちオーナーにも言えることだと思います。
「昔はこうだった」
「昔はこのやり方で利益が出た」
「人が足りなければ自分が働けばいい」
こうした考え方だけでは、これからの時代に対応できなくなる可能性があります。
企業が変わる。
店舗が変わる。
働き方が変わる。
そして、
私たち自身の考え方も変えていかなければならない。
今まで「努力」と考えていたことが、実は「非効率」だったかもしれません。
今まで「オーナーが頑張ればいい」と考えていたことが、実は「仕組みで解決すべき問題」だったかもしれません。
時代が変わるなら、私たちの考え方も変わる必要があります。
オーナーの努力を生産性に置き換える
私は、これからのコンビニ経営では、
オーナーがどれだけ長く働いたか
ではなく、
限られた時間で、どれだけ価値を生み出せたか
が重要になると思っています。
人にしかできない仕事は人がやる。
機械やAIに任せられる仕事は任せる。
無駄な作業はなくす。
店舗運営そのものを効率化する。
そして、生まれた余力を、
お客様へのサービス向上
スタッフの待遇改善
店舗の改善
オーナー自身の生活
に振り向ける。
これこそが、これからのコンビニ経営に必要な「生産性」なのではないでしょうか。
まとめ|問題は損益分岐点が上がり続けること
コンビニの損益分岐点は、店舗ごとに違います。
オーナーの働き方、スタッフの配置、営業時間、売上、粗利、経費などによって変わるからです。
だから、
「日販○万円なら大丈夫」
という一つの答えはありません。
しかし、どの店舗にも共通する問題があります。
それぞれの店舗の損益分岐点が、年々上昇していることです。
最低賃金が上がる。
人件費が上がる。
同じ利益を維持するために必要な売上が上がる。
売上を増やせない店舗では、オーナーが自分の時間を使って穴を埋める。
しかし、
オーナーには1日24時間しかありません。
そして、利益がなくなる前に、オーナーの**「余力」**がなくなってしまう可能性があります。
余力がなくなれば、お客様のために考える時間も、スタッフを育てる時間も、店舗を改善する時間もなくなってしまいます。
忙しいとは、心をなくすと書きます。
オーナーの心まで削って利益を維持する経営には、限界があります。
だからこそ、これからのコンビニ経営に必要なのは、
「もっと働くこと」ではなく、「もっと生産性を上げること」。
企業も変わる。
店舗も変わる。
そして、私たちオーナーの考え方も変わる。
人口減少、人手不足、人件費上昇。
これまでとは明らかに環境が変わっています。
だからこそ、昔のやり方に固執するのではなく、時代に合わせて経営そのものを変えていく必要があります。
オーナーの1日24時間を増やすことはできません。
ならば、
同じ24時間から、より大きな価値を生み出す。
そして、その生まれた余力を、お客様、スタッフ、そして自分自身のために使う。
それが、これからのコンビニ経営に必要な構造改革なのではないでしょうか。
次回予告
今回はCタイプを前提に、人件費上昇によって店舗経営がどのように変化するのかを考えました。
では、Aタイプではどうなるのでしょうか。
AタイプはCタイプとはチャージ構造が異なるため、人件費上昇による利益への影響も変わります。
次回は、Aタイプの店舗をモデルに、最低賃金上昇と損益分岐点の関係を数字で検証してみたいと思います。
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