お中元やお歳暮の季節になると、コンビニでもギフト販売が行われます。
ギフトは店舗にとって大切な商品です。
スタッフ自身が必要だと思って購入することもあるでしょう。
オーナーが担当社員や取引先など、お世話になっている人に感謝の気持ちを込めて贈ることにも意味があります。
しかし、そこに「スタッフに何個買ってもらうか」というノルマや強いプレッシャーが加わった瞬間、話は変わります。
私は、ここにはコンビニ経営で非常に大切な問題があると思っています。
それは、**「目先の売上のために、長年かけて築いてきた信用を使っていいのか」**という問題です。
- 1万円のお中元・お歳暮ギフトでオーナーにいくら残る?
- スタッフ本人の購入と「ノルマ」は全く違う
- オーナーは毎日「信用」を積み上げている
- 信用には「複利」が付く
- スタッフとの信頼関係を築くには時間とお金がかかる
- ギフトのノルマはスタッフとの信用を取り崩す可能性がある
- 一人のスタッフへのお願いが店舗全体に広がる
- 信用を失えば「負債」になる
- SNS時代は「信用」の重要性がさらに高くなっている
- 中元・歳暮市場は縮小している
- 伸びているのは「新しいギフト」
- 「近くて便利」を追求するコンビニが、どこに経営資源を使うのか
- 本部社員もスタッフも、時間そのものが経営資源
- 売上を作ることと、需要を作ることは違う
- 目先の1万円より、守るべき「信用」がある
1万円のお中元・お歳暮ギフトでオーナーにいくら残る?
まず、ギフトを1万円販売した場合を、あくまで一つのモデルケースとして考えてみます。
仮に、
- 売上:10,000円
- 粗利率:30%
- 粗利益:3,000円
- 本部チャージ:粗利益の60%
とすると、
3,000円 × 60%=1,800円
が本部チャージになります。
残りは、
3,000円-1,800円=1,200円
です。
つまり、1万円販売しても、このモデルではオーナー側に残るのは1,200円、売上の12%。
もちろん実際の粗利率やチャージ率、契約条件によって数字は変わります。
さらにここから、人件費、水道光熱費、廃棄、消耗品、設備費など店舗運営に必要な経費が発生します。
ここで考えてみたいのは、
「1万円の売上を作るために、何を犠牲にしているのか」
ということです。
売上だけを見れば1万円。
しかし経営者が本当に見るべきなのは、その1万円を作るために使った人・時間・信用・お金まで含めた費用対効果ではないでしょうか。
スタッフ本人の購入と「ノルマ」は全く違う
スタッフが自分の意思でギフトを購入する。
これは何も問題ありません。
「今年は実家に贈ろう」
「お世話になった人に贈ろう」
という理由で購入するのであれば、普通の消費行動です。
また、オーナーが担当社員や取引先などに、
「いつもありがとうございます」
という気持ちを込めて贈ることにも意味があります。
問題になるのは、
「買ってもらうことが当たり前」
になってしまうことです。
さらに、
「去年は○個だったから今年も」
「あと○個足りない」
「みんな買っている」
といった形で、スタッフにプレッシャーがかかるようになれば、それは単なる販売促進とは違います。
スタッフからすれば、
「買わないといけないのかな」
という心理が生まれてしまいます。
私は、ここを経営者は慎重に考える必要があると思います。
オーナーは毎日「信用」を積み上げている
コンビニ経営で、オーナーが毎日積み上げているものがあります。
それが信用です。
スタッフとの関係。
お客様との関係。
取引先との関係。
本部との関係。
地域との関係。
そして、家族や自分自身との関係。
店舗経営は、こうした多くの人との関係の上に成り立っています。
スタッフ一人ひとりに対しても、
「この店なら安心して働ける」
「困ったときは相談できる」
「頑張れば評価してもらえる」
という信用を、日々少しずつ積み上げています。
これは銀行口座の貯金と少し似ています。
毎日少しずつ積み上げる。
簡単には増えません。
しかし、長い時間をかければ大きな資産になります。
信用には「複利」が付く
信用には、私は複利が付くと思っています。
一度築いた信用が次の信用を生みます。
スタッフとの信頼関係ができれば、困ったときに助けてもらえる。
お客様との信頼関係があれば、長く利用してもらえる。
取引先との関係が良ければ、相談もしやすくなる。
地域との関係があれば、店舗を応援してもらえる。
こうして、一つの信用が次の信用につながっていきます。
だからこそ、信用は時間をかけて積み上げる価値があります。
そして逆に、
信用を失うと、その影響も広がっていきます。
スタッフとの信頼関係を築くには時間とお金がかかる
スタッフを一人採用するだけでも、店舗側にはコストがかかります。
求人を出す。
面接する。
採用する。
仕事を教える。
トレーニングする。
シフトを組む。
一人前になるまでサポートする。
さらに、そのスタッフが長く働いてくれれば、店舗にとって大きな戦力になります。
つまり、オーナーはスタッフ一人ひとりに対して、お金と時間を投資しているわけです。
そして、その過程で少しずつ信用関係が生まれていきます。
だから私は、
スタッフを「売上を作るための人数」とだけ考えてはいけない
と思っています。
スタッフも店舗を一緒に作っていく大切な存在です。
ギフトのノルマはスタッフとの信用を取り崩す可能性がある
仮に、スタッフにギフト購入を強く求めたとします。
その場では売上が増えるかもしれません。
しかし、そのスタッフの中に、
「本当は買いたくなかった」
「断りづらかった」
「仕事とは関係ないのでは?」
という気持ちが残ったらどうでしょうか。
その1万円、5万円、10万円の売上を作るために、
これまで積み上げてきた信用を少し取り崩している可能性があります。
だから私は、
「売上が増えたから成功」
だけでは判断できないと思っています。
一人のスタッフへのお願いが店舗全体に広がる
さらに注意したいのが、店舗内での広がりです。
あるスタッフに、
「今年もお願いね」
と伝えた。
そのスタッフが購入した。
それを別のスタッフが見た。
すると、
「自分も買わないといけないのかな」
と思う人が出てくるかもしれません。
一人に対する「お願い」が、いつの間にか店舗全体の空気になることがあります。
だからこそ、経営者には**「お願い」と「強制」の境界を慎重に考える責任がある**と思います。
信用を失えば「負債」になる
信用は資産です。
しかし、失えば負債にもなります。
スタッフとの信頼関係が崩れれば、離職につながるかもしれません。
採用が難しくなるかもしれません。
教育コストが増えるかもしれません。
「あの店では働きたくない」という評判につながる可能性もあります。
一つひとつは小さな問題に見えても、積み重なれば店舗経営に大きな影響を与えます。
つまり、
信用を失うと、その信用を取り戻すためのコストが発生する。
これが信用の「負債」です。
そして、その負債にも私は利息が付くと思っています。
SNS時代は「信用」の重要性がさらに高くなっている
今は、店舗で起きたことがSNSなどを通じて広がる可能性があります。
もちろん、一つの出来事ですぐに店舗の評判が大きく変わるとは限りません。
しかし、
「昔なら店舗の中だけで終わっていたこと」
が、外部に伝わる可能性は以前より高くなっています。
だからこそ、目先の売上だけではなく、
「このやり方をスタッフやお客様から見たらどう感じるのか」
という視点が重要になっています。
中元・歳暮市場は縮小している
ここで、もう一つ考えたいことがあります。
それは、そもそも中元・歳暮という市場そのものが変化していることです。
一般社団法人ギフト研究所によると、2025年の中元・歳暮市場は1兆3,735億円で、前年比95.8%。
中元・歳暮は、長期的に年3~4%程度の減少傾向が続いているとされています。
背景には、
- 人間関係や付き合い方の変化
- 「虚礼」を減らす動き
- コア顧客の高齢化
- 贈答先の減少
- 一人あたりの購入数の減少
などがあります。
つまり、
「ギフトそのものが必要とされなくなった」のではありません。
変わっているのは、ギフトの形です。
伸びているのは「新しいギフト」
一方で、ギフト市場全体が縮小しているわけではありません。
矢野経済研究所によると、国内ギフト市場全体は2024年に11兆1,880億円、2025年は11兆5,650億円が見込まれています。
さらに、SNSやメールなどで贈る「eギフト」市場は2024年に5,050億円、前年比20.2%増。
2025年には6,450億円まで拡大すると予測されています。
つまり、
「ギフト市場がなくなる」のではなく、「ギフトの形が変わっている」
ということです。
昔ながらの「お中元・お歳暮」という形式から、
「夏のギフト」
「冬のギフト」
「ちょっとした贈り物」
「自分へのご褒美」
「親しい人へのプレゼント」
「eギフト」
などへ、需要が変化しています。
「近くて便利」を追求するコンビニが、どこに経営資源を使うのか
コンビニの強みは、
「近くて便利」
です。
だからこそ、経営資源をどこに使うのかが重要になります。
経営資源とは、お金だけではありません。
- スタッフの時間
- オーナーの時間
- 本部社員の時間
- 会場費
- 商品
- 教育時間
- 販促費
- 店舗運営の労力
これらすべてが経営資源です。
例えば、ギフトの試食会や販売促進のために、会場を用意し、各店舗が商品を提供し、本部社員が準備や運営を行う。
もちろん、販売につながるのであれば意味があります。
しかし、もし多くの経営資源を投入したにもかかわらず、前年実績を下回るのであれば、
「その経営資源を、本当にここに使い続けるべきなのか?」
という検証は必要ではないでしょうか。
本部社員もスタッフも、時間そのものが経営資源
これは店舗スタッフだけの問題ではありません。
本部社員にも時間があります。
その時間をギフト販売のために使うのか。
新しいサービスの開発に使うのか。
店舗の省人化に使うのか。
人手不足への対応に使うのか。
新しい需要を生み出す商品やサービスに使うのか。
経営にとって重要なのは、
「何をやるか」だけではなく、「何をやめるか」
だと思います。
極端に言えば、
「前年実績を下回るような施策に大量の時間を使うくらいなら、本部社員に休んでもらった方がいいのではないか?」
と考えるくらいの視点も必要なのかもしれません。
もちろん、これはギフト販売そのものを否定しているわけではありません。
投入した経営資源に対して、どれだけの成果があったのかを検証しよう
という話です。
売上を作ることと、需要を作ることは違う
ここが今回、一番伝えたいところです。
売上を作ることと、
需要を作ることは違います。
スタッフに購入をお願いすれば、短期的には売上を作れるかもしれません。
しかし、それは本当にお客様の需要を増やしたのでしょうか。
市場が縮小しているのであれば、
「どうやって売るか」
だけではなく、
「なぜ売れなくなっているのか」
を考える必要があります。
そして、需要が変化しているのであれば、
「これから何に経営資源を投入するのか」
を考えることが、経営者の仕事ではないでしょうか。
目先の1万円より、守るべき「信用」がある
私は、スタッフが自分の意思でギフトを購入することを否定しているわけではありません。
オーナーが日頃お世話になっている人にギフトを贈ることも、大切なことだと思います。
問題は、
「売上を作るために、スタッフとの信用を利用していないか」
ということです。
オーナーは毎日、信用を積み上げています。
スタッフとの信用。
お客様との信用。
取引先との信用。
本部との信用。
地域との信用。
そして、周りにいるすべての人との信用。
信用には複利が付きます。
長い時間をかけて積み上げれば、店舗経営を支える大きな資産になります。
逆に、信用を失えば負債になります。
そして、その負債にも利息が付きます。
1万円の売上は、また作ることができます。
しかし、
信用はお金では買えません。
そして、
失った信用は、お金だけでは取り戻せません。
だからこそ私は、目先の売上だけではなく、
「この売上を作るために、何を使っているのか」
を考えることが、これからのコンビニ経営にはますます重要になると思っています。
経営者にとって最大の資産は、店舗や商品だけではありません。
毎日積み上げてきた「信用」そのものです。
その信用を、目先の売上のために使うのか。
それとも、5年後、10年後の店舗経営のために守るのか。
私は、後者を選びたいと思います。
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