企業経営において、売上や利益は重要な指標です。
売上がなければ利益は生まれません。利益がなければ、従業員を雇い、設備を維持し、事業を継続することもできません。
しかし、売上を伸ばすことが、いつの間にか経営そのものの目的になっていないでしょうか。
ニデックの不正会計問題をきっかけに、私は企業経営における数字の意味について考えました。
もちろん、ニデックの問題とコンビニ経営を同じものとして扱うことはできません。しかし、数字の達成が優先されるあまり、現場の実態や本来の目的が見えなくなるという問題は、コンビニ経営にも通じるものがあると感じます。
現役コンビニオーナーとして、私が考えたいのは、売上を伸ばすことそのものではありません。
売上が増えてもオーナーの利益が減り続けているとしたら、その経営は持続可能なのでしょうか。
今回は、セブン‐イレブンの業績と加盟店利益の推移、SEMCによる人件費上昇のシミュレーションを通じて、コンビニ経営の本質について考えてみます。
セブン‐イレブンは売上微増でも加盟店利益が減少している
2026年6月8日付のITmedia ビジネスオンラインの記事では、セブン‐イレブンの2026年2月期の国内事業売上高は9,146億円で、前期比1.2%増だったと報じられています。一方、営業利益は2,225億円で、前期比4.7%減でした。
また、加盟店利益についても、2024年度と2025年度の2年連続で減少したと紹介されています。
出典:ITmedia ビジネスオンライン|セブンはなぜ「ワンオペ」を検討? 加盟店利益の減少で、苦肉の策
ここで注目したいのは、売上高、営業利益、加盟店利益が、それぞれ異なる動きをしていることです。
売上が増えても、本部の営業利益が増えるとは限りません。そして、チェーン全体の売上が伸びても、加盟店の利益が増えるとは限りません。
本部の営業利益と加盟店利益は、収益構造も計算方法も異なるため、単純に比較することはできません。
しかし、加盟店利益が減少しているという事実は、店舗の経営基盤について考える必要性を示しています。
セブン‐イレブンが売上拡大を目指すこと自体に問題があるわけではありません。
問題は、売上を伸ばすことが、加盟店の利益や経営の安定につながっているのかということです。
コンビニ経営は売上よりオーナー利益を重視すべきではないか
コンビニ経営では、日販は重要な指標です。
日販が上がれば、店舗の売上規模が大きくなり、粗利益も増える可能性があります。
しかし、売上を増やすために人件費や廃棄、その他の経費が増えれば、オーナーの利益が思うように増えないこともあります。
例えば、売上を伸ばすために新しい販売施策を実施したとします。
その施策によって商品の販売数が増えても、売場づくりや商品補充などの作業が増えれば、追加の人員や労働時間が必要になるかもしれません。
売上は増えたものの、人件費やその他の費用を差し引くと、利益がほとんど増えていないということも考えられます。
もちろん、売上を伸ばすことによって利益が増え、店舗運営にも余裕が生まれるのであれば、それは望ましいことです。
しかし、売上が増えてもオーナーの利益が減り続けているのであれば、売上だけで経営を評価することには限界があります。
私が重要だと考えるのは、売上をどこまで伸ばせるかだけではなく、売上から生まれた利益をどれだけ店舗に残せるかという視点です。
売上は経営の成果を測る指標の一つであって、経営そのものの目的ではありません。
最低賃金の上昇でコンビニの人件費はいくら増えるのか
コンビニ経営で大きな負担となっているのが、人件費の上昇です。
最低賃金が上がれば、従業員に支払う賃金も増えます。しかし、人件費が上昇したからといって、店舗の売上や粗利益が同じ割合で増えるわけではありません。
例えば、基準時給が1,200円から1,250円に上昇した場合を考えてみます。
今回のSEMCでは、深夜割増を含めた勤務時間全体の平均時給は、基準時給1,200円の場合で1,298円、基準時給1,250円の場合で1,352円となっています。
基準時給の上昇幅は50円ですが、深夜割増を含めた平均時給では54円の上昇となります。
店舗の勤務時間や人員配置によって異なりますが、時給50円の上昇によって月間の人件費が7万〜8万円増えるケースでは、年間84万〜96万円の負担増になります。
年間で考えると、約100万円に近い負担増です。
では、この人件費の上昇を売上で吸収するには、どれだけ日販を伸ばす必要があるのでしょうか。
SEMCで検証する時給50円上昇とオーナー利益の減少
私は、セブン‐イレブンのチャージや店舗収益を試算できるSEMC(セブン経営計算機)を開発しています。
今回はSEMCを使い、時給上昇が店舗利益に与える影響をシミュレーションしました。
試算条件は、日販65万円、粗利益率31.8%、Cタイプ契約、24時間営業です。基準時給は1,200円とし、深夜割増を含めた平均時給で人件費を計算しています。
| 項目 | 時給上昇前 | 時給上昇後 | 時給上昇後・日販増 |
|---|---|---|---|
| 日販 | 65万円 | 65万円 | 68万円 |
| 基準時給 | 1,200円 | 1,250円 | 1,250円 |
| 平均時給 | 1,298円 | 1,352円 | 1,352円 |
| 月間人件費 | 142.97万円 | 148.93万円 | 148.93万円 |
| 月間最終利益 | 40.23万円 | 34.27万円 | 39.71万円 |
| オーナー夫妻の実質時給 | 1,444円 | 1,230円 | 1,425円 |
※SEMCの設定に基づくシミュレーション結果です。実際の店舗の利益を保証するものではありません。
時給上昇前の最終利益は、月約40万2,000円でした。
基準時給を50円引き上げると、最終利益は約34万3,000円まで減少します。
その差は月約6万円、年間では約72万円です。
では、売上を増やせば、この負担を吸収できるのでしょうか。
日販を65万円から68万円へ、3万円増やして計算すると、最終利益は約39万7,000円まで回復しました。
しかし、時給上昇前の利益には、まだ月5,248円届きません。
つまり、日販を3万円増やしても、以前と同じ利益を確保できるとは限らないのです。
もちろん、これは特定の契約条件や経費設定に基づくシミュレーションであり、すべての店舗に当てはまるわけではありません。
それでも、この試算から分かるのは、人件費が上昇するたびに売上を伸ばさなければ、オーナーの利益を維持できない経営には限界があるということです。
セブン‐イレブン本部と加盟店の利益配分は適切なのか
セブン‐イレブン本部が利益を確保すること自体に問題があるわけではありません。
商品開発、物流、システム、広告宣伝など、チェーン全体を維持するためには多くの費用が必要です。
しかし、実際に商品を販売し、接客を行い、店舗を維持しているのは、オーナーと従業員です。
セブン‐イレブンのフランチャイズ経営では、契約条件に基づいて売上総利益から本部チャージが計算されます。店舗に残った粗利益からは、人件費や廃棄、その他の店舗経費を支払わなければなりません。
人件費が上昇しても、本部チャージがその上昇分に応じて自動的に減る仕組みではありません。
そのため、売上が微増していても、人件費などの経費がそれ以上に増えれば、オーナーの利益は減少する可能性があります。
ここに、本部と加盟店の収益構造の違いがあります。
本部の利益を守ることと、加盟店の利益を守ること。この二つは、必ずしも同じではありません。
では、人件費が上昇し、店舗運営の負担が増えている現在、本部と加盟店の間で利益と負担のバランスは適切に保たれているのでしょうか。
私は、この点をもっと議論する必要があると考えています。
本部の利益を単純に減らせばよいという話ではありません。業務の効率化、契約条件、チャージ体系、加盟店支援、店舗で行う業務の優先順位など、さまざまな角度から検証する必要があります。
本部の収益性を維持することと、加盟店が持続可能な経営を続けられること。その両立こそが、フランチャイズ経営に求められるのではないでしょうか。
現場を無視した要求はコンビニ経営の持続可能性を損なう
本部には、全体の売上を伸ばし、ブランドを維持し、商品やサービスを改善する役割があります。
そのために、新しい販売施策や業務上の取り組みを店舗に求めることもあるでしょう。
しかし、店舗には限られた人員と時間があります。
接客、商品の補充、清掃、発注、鮮度管理などを行いながら、新しい業務が加われば、その分の時間や人手が必要になります。
現場の状況を十分に考慮せずに売上向上や業務改善だけを求めれば、オーナーや従業員が無理をして対応することになるかもしれません。
短期的には施策が実行され、売上が改善することもあるでしょう。
しかし、その裏側で従業員の負担が増え、接客の質が低下し、オーナーの労働時間が長くなっているとしたら、本当に望ましい結果なのでしょうか。
必要なのは、現場に努力を求めることだけではありません。
その業務を実行するための人員や時間が確保されているのか。店舗の利益にどのような影響があるのか。ほかの業務との優先順位は適切なのか。
そこまで検証する必要があります。
現場の努力によって何とか成立している仕組みと、無理なく継続できる仕組みは違います。
本部が売上や利益の拡大を目指すのであれば、その施策が店舗の利益や労働環境にどのような影響を与えているのかまで確認する必要があると思います。
コンビニが日本社会に果たす役割と持続可能な経営
コンビニは、商品を販売して利益を得るだけの場所ではありません。
食品や日用品を必要なときに購入できること。公共料金の支払いや宅配便の受付など、日常生活に必要なサービスを利用できること。
地域によっては、高齢者や車を持たない人にとって、身近な生活拠点にもなっています。
こうした機能を継続して提供するためには、店舗が持続可能な経営を続けられることが前提です。
社会的な役割があるからといって、赤字を出し続けてもよいわけではありません。利益が確保できなければ、店舗そのものを維持できなくなるからです。
だからこそ、企業には、利益を確保しながら必要なサービスを継続できる仕組みを整えることが求められます。
そのためには、オーナーや従業員の努力だけに頼るのではなく、店舗の収益構造、人員配置、業務の効率化、本部と加盟店の役割分担を考える必要があります。
コンビニの社会的な役割を維持したいのであれば、それを支える店舗の利益も守らなければなりません。
まとめ|売上至上主義から持続可能なコンビニ経営へ
ニデックの不正会計問題をきっかけに、私は数字を追い求める経営のあり方について考えました。
売上や利益は、企業経営に欠かせません。しかし、数字の達成だけが優先されれば、現場の実態や長期的な持続可能性が見えなくなる危険があります。
コンビニ経営でも、売上が微増しているのにオーナーの利益が減少し、人件費が上がるたびに店舗がさらに売上を伸ばして負担を吸収しなければならないのであれば、経営の仕組みそのものを考え直す必要があります。
本部が利益を確保することも、オーナーが利益を確保することも、どちらも重要です。
そして、店舗が利益を確保できることは、従業員の雇用を守り、必要な人員を確保し、地域に必要なサービスを継続するためにも欠かせません。
売上をどこまで伸ばせるかだけでなく、オーナーの利益をどのように維持・成長させるのか。
人件費が上昇する環境でも、店舗が無理なく経営を続けられる仕組みになっているのか。
本部と加盟店が、利益と負担を適切に分かち合えているのか。
今、考えるべきなのは、こうした問題ではないでしょうか。
売上を伸ばすことが目的なのか。それとも、売上を通じて持続可能な経営を実現することが目的なのか。
私は、現役コンビニオーナーとして、売上の大きさだけでなく、店舗に残る利益と現場の実態を見ながら、持続可能なコンビニ経営とは何かを考え続けていきたいと思います。
コンビニ経営の仕組みや、現場で感じる課題については、これからもブログで発信していきます。
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