先日、J-CASTニュースの、
「『セブンイレブン』のオワコン化が始まった 『上げ底弁当』だけじゃない日本人が行かなくなった理由」
という記事を読みました。
記事では、いわゆる「上げ底弁当」の問題だけではなく、商品の価格、量、お得感など、消費者が以前ほどセブン-イレブンを選ばなくなった理由について取り上げています。
この記事を読んで、私は2000年代後半から2010年代初めのセブン-イレブンを思い出しました。
実はこの時期も、セブン-イレブンは決して順調に伸び続けていたわけではありません。
本部も加盟店も、危機感を持っていた時期です。
しかし、その後セブン-イレブンは社会の変化を捉え、商品やサービスを大きく変えていきました。
その変化を象徴する言葉が、
「近くて便利」
だったのではないでしょうか。
2009年、セブンの日販は61.6万円まで落ち込んでいた
まず、数字から見てみます。
セブン-イレブンの全店平均日販は、2009年度に61.6万円まで落ち込みました。
その後、2010年度は62.9万円、2011年度には66.9万円まで上昇しています。
| 年度 | 全店平均日販 |
|---|---|
| 2008年度 | 約62.9万円 |
| 2009年度 | 約61.6万円 |
| 2010年度 | 約62.9万円 |
| 2011年度 | 約66.9万円 |
| 2012年度 | 約66.8万円 |
※日販はセブン&アイ・ホールディングス等の公開資料をもとに整理。
特に注目したいのが、
2009年度の61.6万円から、2011年度には66.9万円まで上昇したことです。
もちろん、2011年には東日本大震災があり、コンビニが生活インフラとして改めて認識されたことも大きな要因だったと思います。
ただ、私は震災だけでは説明できないと考えています。
その前からセブン-イレブンは、社会の変化に合わせて商品やサービスを変えていました。
社会が変わり、「近くて便利」が重要になった
当時、生活者を取り巻く環境は大きく変化していました。
世帯人数が減少し、共働き世帯が増えるなど、生活スタイルそのものが変わっていきました。
毎日スーパーに行く時間がない。
一人分だけ欲しい。
料理に時間をかけられない。
仕事帰りにすぐ食事を用意したい。
こうした生活の変化に対して、
「必要なものを、必要な分だけ、近くで、短時間で買える」
という価値が重要になりました。
それが、
「近くて便利」
という考え方につながったのだと思います。
セブンプレミアムは「安さ」だけを売る商品ではなかった
その象徴の一つが、2007年にスタートした「セブンプレミアム」です。
セブンプレミアムは2007年5月、49アイテムからスタートしました。
セブン&アイの公式資料では、
「お客様の日々の暮らしをより豊かに・楽しく・便利に」
を目標としていたと説明されています。
また、セブン-イレブンの公式「イノベーションの歴史」では、2009年にデリカテッセンや冷凍食品の販売を開始するなど、「近くて便利」をさらに進化させていったことが紹介されています。
ここで興味深いのが、井阪隆一氏です。
井阪氏は商品開発畑を歩んできた人物で、本人もインタビューで、
「私は、もともと商品開発が長く」
と語っています。
そしてセブンプレミアムについて、一定以上の品質と価値を持つ商品でなければ出さないというルールを決めていたと説明しています。
また、自身がセブンプレミアムの立ち上げなどに関わってきたことも語っています。
ここが、今のセブンを考える上でも重要だと思います。
当時のセブンプレミアムは、
「安いから買う商品」
だけを目指していたのではありません。
「この価格なら、この品質なら買いたい」
と思ってもらえる商品を作ろうとしていた。
つまり、
価格だけではなく、価値を売っていた。
私はそう感じています。
「ちょっと便利で、ちょっと上質」という価値
2010年には、専門店と同等以上の味・品質を追求した「セブンプレミアム ゴールド」も展開されました。
ここにも、当時のセブンの商品戦略が表れていると思います。
専門店には専門店の価値があります。
しかし、すべてのお客様が専門店に行けるわけではありません。
そこで、
専門店ほど本格的ではない。
でも、
近くで買える。
リーズナブル。
気軽に楽しめる。
という価値を作る。
現在のセブンカフェにも、私は同じ考え方を感じます。
本格的なコーヒー専門店には敵わない。
それでも、コンビニで気軽に買える価格で、普段より少し上質なコーヒーを楽しめる。
私は、これこそコンビニの大きな価値だと思っています。
コンビニの社会的役割は「時短」と「日常の質」
私は、コンビニの社会的な役割は大きく2つあると考えています。
① 時短によるタイムパフォーマンス
近くにある。
必要なものを必要な分だけ買える。
スーパーまで行く時間を短縮できる。
少量のお惣菜を買って、料理の時間を減らせる。
仕事帰りにすぐ食事を用意できる。
こうした便利さによって、
お客様の時間を生み出す。
その時間を、
家族との時間。
仕事。
睡眠。
趣味。
休息。
に使うことができます。
これが、コンビニが提供するタイムパフォーマンスだと思います。
② 日常を少し上質にする
もう一つは、
普段の生活を少し上質なものにすること。
セブンカフェは、その代表例だと思います。
専門店ほど本格的ではない。
でも、専門店ほど高くない。
わざわざ遠くまで行かなくてもいい。
近所で気軽に買える。
「今日はちょっといいコーヒーを飲もう」
そんな小さな楽しみを日常に加えることができます。
だから私は、
「近くて便利」=単なる近さではない
と思っています。
時短によるタイムパフォーマンス。
そして、
日常を少し上質にする価値。
この2つが合わさって、初めて「近くて便利」になるのではないでしょうか。
私が当時の本部に感じていた「熱量」
ここからは、私自身が現場で感じていたことです。
当時の本部は、現場をかなり大切にしていたように感じます。
本部社員が店舗に来たときも、売上数字だけを見るのではありません。
売場を見る。
商品を見る。
スタッフの話を聞く。
お客様の動きを見る。
そして、
「この店をどうすればもっと良くできるのか」
を一緒に考える。
さらに、月に一度、本部社員が集まるミーティングもありました。
店舗の状況を共有し、コミュニケーションを通じて売場や商品の提案を行う。
スタッフとのコミュニケーションも重視されていました。
少なくとも私が当時の現場で感じていたのは、
「本部と店舗が一緒になって店を良くする」
という感覚でした。
単に本部から指示が下りてくるのではなく、
現場を見る。
現場の声を聞く。
それを商品や売場に反映する。
そういう熱量が、今より強かったように感じています。
ただし、当時のセブンにも問題はあった
ここは、誤解のないように書いておきたいと思います。
私は、
「昔のセブンはすべて良かった」
と言いたいわけではありません。
当時も加盟店との関係や見切り販売をめぐる問題など、さまざまな問題がありました。
そして2015年には、セブン-イレブン・ジャパンが「ブラック企業大賞2015」の大賞に選ばれています。
当時の報道では、見切り販売をめぐる問題など、加盟店との関係が選考理由の一つとして挙げられていました。
つまり、
商品開発や現場との関係で評価できる部分があった一方、加盟店との関係には深刻な問題もあった。
これも当時のセブンの一面です。
だからこそ、過去を美化するのではなく、
何が良かったのか。
何が問題だったのか。
両方を見る必要があると思います。
現在のセブンに感じる違和感
ここで、最初のJ-CASTの記事に戻ります。
現在のセブン-イレブンは、売上そのものが崩壊しているわけではありません。
しかし、私は客数の動きを気にしています。
2026年2月期を見ると、セブン-イレブンの既存店売上高は前年比1.2%増でした。
一方で、客数は0.9%減少しています。
ローソンは既存店売上高が4.5%増、客数は0.8%増。
ファミリーマートも売上高は3.0%増となっています。
つまり、セブンの売上が大きく崩れているわけではありません。
しかし、
「何人のお客様が来店しているのか」
という視点で見ると、違った景色が見えてきます。
企業には、
原材料費。
人件費。
物流費。
加盟店の経営環境。
さまざまな事情があります。
しかし、最終的に、
「どのコンビニを選ぶのか」
を決めるのはお客様です。
ローソンやファミリーマートが良くなったこともあるでしょう。
ただ、
「他社が良くなったからセブンが苦戦している」
だけでは説明できないのではないでしょうか。
もしセブンが他社より苦戦しているのであれば、
その原因は、まずセブン自身の中にもある。
そう考えてみる必要があると思います。
数字は、
セブンがお客様に提供してきた価値が、現在のお客様の期待にどこまで応えられているのか
を考える材料になるからです。
上げ底問題で感じた違和感
今回のJ-CASTの記事を読んで、私が改めて考えたのが「上げ底問題」です。
SNSでは、セブン-イレブンの弁当や容器について、「上げ底ではないか」という批判が繰り返されてきました。
企業側には、容器の構造や電子レンジ対応など、さまざまな事情があることも理解しています。
しかし、お客様が感じている問題は、
「容器の底が何センチ上がっているか」
だけではないと思います。
本当に問題なのは、
「以前より高くなった」
「以前より少なく感じる」
「この価格で買う価値があるのか」
という感覚ではないでしょうか。
だから、
「上げ底ではありません」
と説明するだけではなく、
「なぜ、お客様がそう感じるようになったのか」
に向き合うことが大切なのではないでしょうか。
少なくとも、私が当時の現場で感じていた「お客様ファースト」という考え方であれば、もっとお客様の気持ちに寄り添った説明になったのではないか。
私はそう感じました。
都合の悪い問題にどう向き合うのか
もう一つ、最近のセブン-イレブンを見ていて気になることがあります。
これは、あくまで私個人の感じ方です。
問題が起きたとき、
「なぜその問題が起きたのか」
を構造的に考えるより、
「一部店舗の問題」
として処理されているように見えることがあります。
例えば転売問題。
人気商品の販売をめぐり、一部店舗で不適切な販売や買い占め、転売につながる事例が問題になりました。
また、加盟店の労務問題についても、本部と加盟店は別事業者であり、加盟店側に労務管理の責任があることは理解しています。
しかし、チェーン全体として考えたとき、
「加盟店の問題だから加盟店の責任」
だけで終わらせていいのか。
私は疑問を感じます。
もちろん、
「本部が問題を隠蔽している」
と断定するつもりはありません。
ただ、現場から見ると、
「都合の悪い問題を、構造的な問題として捉えるよりも、個別店舗の問題として処理しているように見えてしまう」
ことがあります。
そして、それが結果として、
「責任転嫁ではないか」
と受け取られてしまうのではないでしょうか。
「お客様ファースト」とは何なのか
私は、
「お客様ファースト=お客様の言うことを何でも聞く」
ということではないと思っています。
企業にも事情があります。
値上げが必要なこともあります。
商品仕様を変更しなければならないこともあります。
できないこともあります。
それでも、
まず、お客様が何を感じているのかを見る。
その上で、
なぜそう感じさせてしまったのかを考える。
そして、
企業としてできること、できないことを正直に説明する。
これが、お客様ファーストなのではないでしょうか。
そして同じことを、加盟店との関係にも求めたいと思います。
加盟店を単なる「店舗」ではなく、
セブン-イレブンというブランドを一緒に作っている現場
として見る。
それが本部にとっても重要なのではないでしょうか。
セブンは本当に「オワコン」なのか
私は、セブン-イレブンがオワコンになったとは思いません。
むしろ、今の社会だからこそ、コンビニの役割は大きいと思っています。
共働き世帯。
単身世帯。
高齢者。
人手不足。
忙しい毎日。
こうした社会では、
「時間を買える場所」
としてのコンビニの価値は、むしろ高まっているのではないでしょうか。
問題は、コンビニという業態そのものではありません。
問題は、
「今のお客様にとっての近くて便利とは何なのか」
を、もう一度考えられるかどうかです。
セブンに必要なのは「昔に戻ること」ではない
2009年、セブン-イレブンの日販は61.6万円まで落ち込みました。
しかし、その後、
社会の変化を捉え、
商品を変え、
セブンプレミアムを育て、
簡便食品を増やし、
「近くて便利」という価値を強くしていきました。
そして2011年度には日販66.9万円まで上昇しました。
もちろん、現在と当時では社会環境が違います。
だから、
昔と同じことをすればいいわけではありません。
必要なのは、
2026年のお客様が何に困っているのかを見つけること。
そして、
その困りごとを解決する商品とサービスを作ること。
さらに、
「ちょっと便利で、ちょっと上質」
という、コンビニならではの価値をもう一度磨くことです。
最後に
セブン-イレブンに昔へ戻ってほしいわけではありません。
2026年のお客様にとっての「近くて便利」を、もう一度作ってほしい。
時間を節約できる。
そして、忙しい毎日の中に、少しだけ上質な時間を作ってくれる。
専門店ほど本格的ではなくても、
近くて、気軽で、リーズナブル。
それでいて、
日常を少し豊かにしてくれる。
それが、コンビニだからこそ提供できる価値なのだと思います。
そして、その価値を生み出すためには、
現場を見ること。
お客様の声を聞くこと。
加盟店の声を聞くこと。
そして何より、
数字から逃げず、数字の向こう側にいるお客様を見ること。
私は、それがこれからのセブン-イレブンに必要な「お客様ファースト」なのではないかと思っています。
セブン-イレブンは、本当に「オワコン」なのか。
私はそうは思いません。
ただ、過去の成功体験に戻るだけでは、これからの時代には対応できません。
必要なのは、
2026年のお客様にとっての、新しい「近くて便利」を作ること。
そこが、これからのセブン-イレブンにとって、大きな分岐点になるのではないでしょうか。
参考資料
J-CASTニュース「『ブラック企業大賞2015』セブン‐イレブンに」
J-CASTニュース「『セブンイレブン』のオワコン化が始まった 『上げ底弁当』だけじゃない日本人が行かなくなった理由」
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