コンビニの人手不足と人件費の上昇が続くなか、深夜営業のあり方を見直す必要性が高まっています。
深夜でも買い物ができることは、コンビニの大きな価値です。しかし、来店客が少ない時間帯にもスタッフを配置し続けることが、すべての店舗にとって最適なのでしょうか。
そんな疑問を考えるうえで参考になるのが、ローソンの深夜無人営業への取り組みです。
ローソンは過去に深夜帯の無人営業を実証実験し、2026年にはKDDIと共同で、夜間を無人営業とする店舗も展開しています。
無人営業を実現する技術は、すでに存在しています。それなのに、なぜ一般のコンビニでは広く普及していないのでしょうか。
現役コンビニオーナーの視点から、深夜営業の採算性、人件費、加盟店の利益、そして本部に求められる役割について考えます。
1. ローソンは深夜無人営業の実証実験を行っていた
ローソンは2019年、神奈川県横浜市の店舗で、深夜0時から朝5時まで売り場を無人化する実証実験を行いました。
入店認証、セルフレジ、防犯カメラなどを活用し、スタッフが売り場にいなくても買い物と決済ができる仕組みを検証しました。
年齢確認が必要な商品などには販売上の制約を設けることで、無人営業を成立させようとしたのです。
つまり、深夜にスタッフが常駐しなくても買い物ができる仕組みは、すでに数年前から検討されていました。
では、なぜこうした仕組みが一般のコンビニに広がっていないのでしょうか。
2. 2026年、ローソンとKDDIが夜間無人営業の店舗を展開
2026年には、KDDIとローソンが「ローソンKDDI新宿ビル店」をオープンしました。
この店舗では、専用アプリを利用したスマホレジや飲料陳列ロボットなどを活用し、20時から翌朝7時30分まで無人営業を行っています。
ただし、この店舗はKDDI新宿ビル内の社員専用フロアに設置された店舗です。不特定多数のお客様が利用する一般のロードサイド店舗とは、利用環境が異なります。
利用者が限定された環境で無人営業を実現できても、それだけで全国のコンビニに同じ仕組みを導入できるとは限りません。
それでも、技術を組み合わせることで夜間の無人営業が実現していることは、今後のコンビニ経営を考えるうえで重要な事例です。
参考:KDDI公式発表
3. 無人営業の技術があるのに、なぜ一般店舗に普及しないのか?
無人営業が普及しない理由は、技術がないからとは限りません。
実際の店舗で導入するには、技術面だけでなく、売上や利益、防犯、サービスの維持などを総合的に考える必要があります。
深夜の売上が減る可能性がある
スタッフがいることで生まれていた安心感や、店内調理品などの販売機会が、無人化によって失われる可能性があります。
入店方法や決済方法が変われば、これまで利用していたお客様が買い物を控えることも考えられます。
人件費を削減できても、売上と粗利益が大きく減れば、経営上のメリットは小さくなります。
防犯や緊急時の対応が必要になる
無人の売り場では、万引きや設備の破損、急病人の発生などに、スタッフがその場で対応できません。
入店認証や防犯カメラを設置しても、すべてのトラブルを防げるわけではありません。
遠隔監視、緊急連絡、必要に応じた駆けつけ体制などが必要になります。
商品やサービスに制約が生まれる
コンビニは商品を販売するだけの場所ではありません。
公共料金の支払い、宅配便、年齢確認が必要な商品など、さまざまな商品やサービスを取り扱っています。
無人営業の時間帯に、どこまでのサービスを提供するのか。その設計も課題になります。
設備投資に見合う効果が必要になる
入店管理、決済システム、防犯設備、遠隔監視などの導入には費用がかかります。
人件費を削減できても、設備費やシステム利用料が大きければ、加盟店の利益は期待したほど増えないかもしれません。
重要なのは、無人営業を導入できるかどうかだけではなく、導入費用を含めても加盟店の利益が改善するかどうかです。
4. 深夜営業の採算性を日販70万円の店舗で試算する
ここからは、深夜帯の売上と人件費を比較します。
今回のシミュレーションでは、次の条件を設定します。
- 日販70万円、60万円、50万円の3パターン
- 粗利率32%
- 深夜0時から朝5時までの売上は、1日の売上の6%
- 本部チャージ率は74%と仮定
- 基本時給1,500円、深夜割増25%を加算して時給1,875円
- 深夜スタッフ2人がそれぞれ1時間休憩し、合計8時間分の賃金が発生
- 月30日営業
本部チャージ率74%とチャージ減額2%は、今回の試算上の仮定です。実際の契約条件や適用要件は、契約内容に基づいて確認する必要があります。
日販70万円の場合、深夜帯の取り分は約10万円(セブンイレブン)
深夜帯の売上は1日4万2,000円、月30日で126万円になります。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 深夜帯の売上 | 126万円 |
| 深夜帯の粗利益(32%) | 40万3,200円 |
| 本部チャージ(74%) | 29万8,368円 |
| 加盟店の取り分 | 10万4,832円 |
| 深夜人件費 | 45万円 |
| 深夜帯の取り分-人件費 | -34万5,168円 |
| 24時間営業のチャージ減額(店舗全体の粗利益の2%と仮定) | 13万4,400円 |
深夜帯の粗利益から本部チャージを差し引いた加盟店の取り分は、月約10万5,000円です。
一方、深夜人件費は月45万円です。深夜帯の売上だけでは、人件費をまかなえていない計算になります。
ただし、深夜帯には商品の補充や翌日の準備など、ほかの時間帯の店舗運営を支える仕事もあります。深夜帯の売上だけで、深夜勤務の価値をすべて判断することはできません。
また、24時間営業のチャージ減額は店舗全体の粗利益を基準にした別項目です。深夜帯の収支にそのまま加算することはしていません。
5. 日販60万円・50万円では深夜帯の負担がさらに大きくなる
日販が変わった場合も、同じ条件で比較します。
| 項目 | 日販70万円 | 日販60万円 | 日販50万円 |
|---|---|---|---|
| 深夜帯の売上(月) | 126万円 | 108万円 | 90万円 |
| 深夜帯の粗利益 | 40万3,200円 | 34万5,600円 | 28万8,000円 |
| 本部チャージ(74%) | 29万8,368円 | 25万5,744円 | 21万3,120円 |
| 加盟店の取り分 | 10万4,832円 | 8万9,856円 | 7万4,880円 |
| 深夜人件費 | 45万円 | 45万円 | 45万円 |
| 深夜帯の収支 | -34万5,168円 | -36万144円 | -37万5,120円 |
| 24時間営業のチャージ減額(月) | 13万4,400円 | 11万5,200円 | 9万6,000円 |
日販が下がると、深夜帯の加盟店の取り分は減ります。一方で、スタッフを配置するための人件費は、売上に比例して減るわけではありません。
そのため、深夜の来店客が少ない店舗ほど、深夜の人員配置が経営上の負担になりやすいと考えられます。
ここで示したチャージ減額2%は、店舗全体の粗利益を基準にした仮定です。深夜帯の収支とは別に考える必要があります。
6. スタッフを2人から1人に減らす方法もある
無人化が難しい店舗でも、深夜の人員配置を見直す方法はあります。
例えば、深夜スタッフを2人から1人に減らし、1人が5時間勤務すると仮定します。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 深夜人件費(2人配置) | 45万円 |
| 深夜人件費(1人・5時間勤務) | 28万1,250円 |
| 人件費の削減額 | 16万8,750円 |
| 24時間営業のチャージ減額(日販70万円の場合) | 13万4,400円 |
人件費は減らせますが、1人勤務には防犯や緊急時の対応などの課題があります。
また、スタッフを1人に減らしただけで、チャージ減額が増えるわけではありません。
人件費の削減額だけでなく、安全性や作業負担も含めて判断する必要があります。
7. 深夜売上が半減しても、無人化で収支は改善するのか?
日販70万円の店舗で、深夜帯の売上が無人化によって半減すると仮定します。
深夜帯の売上は1日4万2,000円から2万1,000円になります。ほかの時間帯の売上は変わらないものとします。
この場合、店舗全体の売上は1日70万円から67万9,000円に減ります。
| 項目 | 通常営業 | 深夜売上が半減 |
|---|---|---|
| 1日の店舗売上 | 70万円 | 67万9,000円 |
| 深夜帯の売上(月) | 126万円 | 63万円 |
| 深夜帯の粗利益 | 40万3,200円 | 20万1,600円 |
| 本部チャージ(74%) | 29万8,368円 | 14万9,184円 |
| 深夜帯の加盟店取り分 | 10万4,832円 | 5万2,416円 |
| 深夜人件費 | 45万円 | 0円 |
| 深夜帯の収支 | -34万5,168円 | +5万2,416円 |
| 24時間営業のチャージ減額(月) | 13万4,400円 | 13万368円 |
この仮定では、深夜帯の取り分から人件費を差し引いた収支は、約39万8,000円改善します。
ただし、これは深夜帯の収支だけを比較した結果です。無人化設備の費用、防犯対策費、システム利用料、別の時間帯に移る作業の人件費などは含まれていません。
また、深夜の売上が減ることで店舗全体の粗利益も減り、チャージ減額も月13万4,400円から13万368円に変わる計算です。
人件費の削減額だけを見て、無人化によって必ず利益が増えると判断することはできません。 店舗全体の収支で比較することが必要です。
8. 深夜無人営業を普及させるには本部の仕組みづくりが必要
深夜スタッフレス化を加盟店だけで実現するのは簡単ではありません。
入店管理、決済、防犯カメラ、遠隔監視、緊急時の対応など、店舗単独では導入や運用が難しい仕組みもあります。
本部には、加盟店が安心して導入できるシステムや運用ルールの整備を期待したいところです。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
- 店舗の立地や深夜売上に応じた導入モデルの検証
- 入店認証や遠隔監視システムの共通化
- 無人時間帯に販売できる商品やサービスの整理
- トラブル発生時の対応体制の整備
- 設備投資とランニングコストを含めた収支の検証
- 実証実験の結果を加盟店に共有する仕組み
すべての店舗を一律に無人化する必要はありません。
深夜の需要がある店舗ではスタッフを配置し、来店客が少ない店舗では無人化や省人化を検討する。店舗ごとの実情に合わせて選べる仕組みが重要だと思います。
9. 24時間営業をなくすのではなく、深夜営業の仕組みを変える
コンビニの24時間営業は、地域の生活を支える大切な機能です。
深夜や早朝に必要な商品を購入できることは、利用者にとって大きな安心につながります。
一方で、その機能を維持するために、オーナーや従業員が無理を重ねなければならないのであれば、長期的に持続できる仕組みとはいえません。
深夜スタッフレス化は、すべての店舗に適した方法ではありません。しかし、深夜の来店客が少ない店舗では、営業時間を短縮する以外の選択肢になり得ます。
営業時間を維持しながら、スタッフの配置や店舗運営の仕組みを変える。
それによって人件費を抑え、日中の人手不足を補い、オーナーや従業員の負担を軽減できる可能性があります。
10. まとめ|技術を加盟店の利益につなげられるか
ローソンは2019年に深夜無人営業の実証実験を行い、2026年にはKDDIと共同で、夜間を無人営業とする店舗を展開しました。
こうした事例から、深夜無人営業は技術的に実現可能な選択肢になっていることが分かります。
しかし、一般のコンビニで普及させるには、売上への影響、防犯、商品やサービスの制約、設備投資など、解決すべき課題があります。
大切なのは、無人営業を導入すること自体を目的にするのではなく、導入した結果、加盟店の利益と店舗運営の持続可能性が改善するかを確かめることです。
本部には、実証実験で得られた知見を生かし、加盟店が導入を検討できる仕組みを整えてほしいと思います。
加盟店側も、自店の深夜帯の売上、人件費、地域の需要を把握し、今の営業方法が本当に最適なのかを考える必要があります。
なお、今回の試算では、加盟年数などに応じた追加のチャージ減額は含めていません。24時間営業のチャージ減額2%についても、店舗全体の粗利益に対する減額として仮定した試算です。実際の適用条件は契約内容の確認が必要です。
コンビニが地域の生活を支える存在であり続けるためにも、従来の方法を維持するだけでなく、技術を活用して新しい運営方法を考える時期に来ているのではないでしょうか。
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