最低賃金が上がれば、働く人の収入は増えます。
しかし、従業員を雇用するコンビニオーナーにとっては、人件費の上昇という経営課題が生まれます。
では、最低賃金が上がるなかで、加盟店の利益はどのように変化しているのでしょうか。
今回は、2021年と2025年の全国最低賃金、セブン‐イレブンの平均日販と商品粗利率、そしてオーナー利益のシミュレーションを比較します。
さらに、セブン‐イレブン・ジャパン本部の決算も確認し、本部と加盟店の利益という視点から考察します。
売上が増えてもオーナーの利益が減る。この結果は、コンビニ経営における「相互利益」を考えるうえで、重要な問題提起になるのではないでしょうか。
2021年から2025年に最低賃金はどれだけ上昇したのか
まず、全国の最低賃金の加重平均額を比較します。
| 項目 | 2021年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 全国加重平均額 | 930円 | 1,121円 |
| 上昇額 | — | 191円 |
| 上昇率 | — | 約20.5% |
出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
4年間で、全国最低賃金の加重平均額は約20.5%上昇しました。
最低賃金の引き上げは、従業員の生活を支えるために重要です。
一方、店舗を運営する側では、時給の引き上げだけでなく、人材確保のための賃金調整なども必要になる場合があります。
その結果、店舗の人件費が増え、利益を圧迫する可能性があります。
そこで、最低賃金の上昇が加盟店の経営にどのような影響を与えるのか、具体的な数字で検証してみます。
セブン‐イレブンの平均日販と商品粗利率を比較する
今回のシミュレーションでは、各年の平均日販と商品粗利率を使用します。
| 項目 | 2021年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 平均日販 | 64万6,000円 | 69万9,000円 |
| 商品粗利率 | 31.7% | 31.8% |
| 日販の増加額 | — | 5万3,000円 |
| 日販の増加率 | — | 約8.2% |
※平均日販と商品粗利率は今回のシミュレーションに使用した数値です。記事公開時には、対象期間と公式IR資料の数値を照合する必要があります。
平均日販は約8.2%増加し、商品粗利率もわずかに上昇しています。
売上が増え、粗利率も上がれば、店舗の粗利益は増加する方向に働きます。
しかし、粗利益が増えることと、最終的にオーナーの手元に利益が残ることは別の話です。
人件費や光熱費、廃棄などの経費、本部チャージを差し引いた後に、どれだけの利益が残るのかを確認する必要があります。
同じ運営条件でオーナー利益をシミュレーション
今回は、2021年と2025年のそれぞれの平均日販、商品粗利率、最低賃金を使用しています。
一方、営業時間、人員配置、オーナー夫婦の労働時間、その他の運営条件は同じにして比較しました。
| 項目 | 2021年 | 2025年 |
|---|---|---|
| 平均日販 | 64万6,000円 | 69万9,000円 |
| 商品粗利率 | 31.7% | 31.8% |
| 全国最低賃金の加重平均 | 930円 | 1,121円 |
| オーナーの月間労働時間 | 171時間 | 171時間 |
| 奥様の月間労働時間 | 107時間 | 107時間 |
| 夫婦の合計労働時間 | 278時間 | 278時間 |
| 月間最終利益 | 112万6,558円 | 103万6,950円 |
※利益は提示されたシミュレーション画像から読み取った数値です。実際の加盟店全体の平均利益ではありません。
注目したいのは、日販が増加しているにもかかわらず、オーナー利益が減少している点です。
2021年の月間最終利益は112万6,558円でした。
それに対して、2025年は103万6,950円です。
月間8万9,608円、年間換算では107万5,296円の減少となります。
利益の減少率は約8.0%です。
売上が増えても年間約108万円の利益が減少する
今回のシミュレーションでは、平均日販が約8.2%増加する一方、月間最終利益は約8.0%減少しました。
年間に換算すると、約108万円の利益減少です。
オーナー夫婦の労働時間は、月間278時間で変わっていません。
つまり、同じ時間を働いても、経営者に残る利益が減少する結果となっています。
ただし、この結果は今回設定した条件によるシミュレーションです。実際の利益は契約条件、経費、廃棄、光熱費などによっても変化するため、最低賃金だけが利益減少の原因だと断定することはできません。
それでも、売上拡大だけで加盟店の経営状態を判断できないことは明らかです。
本部が売上拡大を目指すのであれば、加盟店にどれだけの利益が残るのかも確認する必要があるのではないでしょうか。
セブン‐イレブン・ジャパン本部の利益はどう変化したのか
次に、本部の決算を確認します。
ここでは、決算期を明確にするため、セブン‐イレブン・ジャパンの公式損益計算書から、2022年2月期と2025年2月期の数値を比較します。
| 項目 | 2022年2月期 | 2025年2月期 |
|---|---|---|
| 営業総収入 | 8,630億円 | 8,795億円 |
| 営業利益 | 2,230億円 | 2,337億円 |
| 経常利益 | 2,736億円 | 2,847億円 |
| 当期純利益 | 1,896億円 | 2,019億円 |
出典:セブン‐イレブン・ジャパン公式「貸借対照表・損益計算書」
※2022年2月期は2021年3月から2022年2月まで、2025年2月期は2024年3月から2025年2月までの実績です。金額は百万円単位の公表値を億円単位に丸めています。
この比較では、本部の営業利益は約107億円増加しています。
当期純利益も約123億円増加しています。
一方、先ほどの加盟店シミュレーションでは、同じ運営条件のもとでオーナー利益が減少する結果となりました。
ただし、ここで注意したいのは、本部の決算実績と加盟店1店舗のシミュレーションは、対象も会計上の意味も異なるということです。
本部の利益には、加盟店からの収入だけでなく、直営店の売上や経費、その他の収入・費用などが反映されます。
そのため、本部の利益が増えたことだけをもって、加盟店の負担が本部の利益に移ったと結論づけることはできません。
それでも、本部と加盟店の利益が同じ方向に動くとは限らないという点は、重要な視点です。
本部と加盟店の利益構造は異なる
フランチャイズ経営では、本部と加盟店は異なる収益構造を持っています。
加盟店は、店舗の粗利益から本部チャージや人件費、光熱費、その他の経費などを負担し、最終的な利益を確保します。
一方、本部は加盟店からの収入などを得て、商品開発、物流、システム、経営支援など、チェーン全体の運営を担います。
本部の利益が増えても、それが自動的に加盟店の利益増加につながるわけではありません。
反対に、加盟店の利益が減少したからといって、本部の利益が必ず増えるわけでもありません。
重要なのは、それぞれの利益がどのような要因によって変化したのかを確認することです。
そして、最低賃金の上昇が続くなかで、加盟店が継続的に経営できる収益構造になっているかを検証する必要があります。
公正取引委員会が示すフランチャイズ取引の考え方
公正取引委員会は「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」を公表しています。
このガイドラインでは、本部と加盟店は法律上それぞれ独立した事業者であることが前提とされています。
また、本部が取引上優越した立場を利用し、加盟店に不当に不利益を与える場合などには、独占禁止法上の問題となる可能性があります。
ただし、最低賃金が上昇したことや、加盟店の利益が減少したことだけで、本部の独占禁止法違反が成立するわけではありません。
本部が最低賃金の上昇分を必ず直接負担しなければならないと定められているわけでもありません。
重要なのは、実際の契約内容や取引の状況を踏まえ、加盟店に不当に不利益を与える取引が行われていないかという点です。
今回のシミュレーションは、法令違反を証明するものではありません。
しかし、加盟店の利益がどの程度変化するのかを数字で検証し、本部と加盟店の双方が経営を継続できる仕組みを考えることには意味があります。
相互利益を確保するために必要なこと
本部と加盟店の相互利益を考えるなら、売上だけでなく、利益と労働負担の両方を見る必要があります。
1. 最低賃金の上昇を織り込んだ経営計画
人件費が上昇した場合に、加盟店の利益がどの程度減少するのかを事前に試算することが重要です。
売上目標だけでなく、賃金上昇後も必要な利益を確保できるかを検証する必要があります。
2. 店舗の作業負担を軽減する取り組み
発注、品出し、清掃などの業務を効率化し、必要な作業時間を適正化できれば、人件費の上昇による影響を軽減できる可能性があります。
ただし、単純な人員削減ではなく、安全性、接客品質、従業員の負担を考慮することが前提です。
3. 本部と加盟店が利益を検証する仕組み
人件費が上昇したとき、加盟店の利益がどの程度減少するのか。
その影響を軽減するために、本部はどのような支援や改善策を実施できるのか。
こうした問題を、実際の店舗データに基づいて継続的に検証することが重要です。
まとめ|売上拡大だけでなく加盟店に残る利益を考える
今回のシミュレーションでは、2021年と2025年のそれぞれの平均日販、商品粗利率、最低賃金を反映し、その他の運営条件をそろえて比較しました。
その結果、平均日販は約8.2%増加した一方、月間最終利益は8万9,608円減少しました。
年間換算では約108万円の減少です。
一方、セブン‐イレブン・ジャパンの公式決算では、2022年2月期から2025年2月期にかけて営業利益が増加しています。
ただし、両者は会計上の対象が異なるため、単純に利益を比較して因果関係を結論づけることはできません。
それでも、加盟店の利益と本部の利益をそれぞれ確認することで、フランチャイズ経営の収益構造を考えるきっかけになります。
最低賃金の引き上げは、働く人にとって重要な変化です。
同時に、加盟店が必要な人員を確保し、適切な労働環境を維持しながら利益を残せる仕組みも必要です。
公正取引委員会が示すフランチャイズ取引の考え方を踏まえ、本部と加盟店の相互利益とは何かを考えていく必要があります。
売上が増えたかどうかだけでなく、加盟店にいくらの利益が残り、本部と加盟店の双方が持続的に経営できるのか。
コンビニ経営を考えるうえで、この視点を忘れてはいけないと思います。
参考資料
- セブン‐イレブン・ジャパン|貸借対照表・損益計算書
- 公正取引委員会|フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方
- 公正取引委員会|コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査
- 厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧
※本記事の加盟店利益は提示されたシミュレーションに基づく試算です。法令・決算資料の説明と筆者の考察を区別しています。
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