はじめに
「コンビニは24時間営業が当たり前。」
日本では長年、この考え方がコンビニ業界の常識として定着してきました。
「いつでも開いている安心感」はコンビニ最大の魅力であり、ブランド価値そのものと言っても過言ではありません。
しかし近年、コンビニを取り巻く経営環境は大きく変化しています。
最低賃金は毎年のように上昇し、人手不足は深刻化しています。物価上昇によって光熱費や物流費などの経費も増加し、加盟店の経営環境は年々厳しさを増しています。
かつてのような「デフレ」「人余り」の時代ではありません。
インフレが進み、人材の確保そのものが難しくなった現在、従来どおりのビジネスモデルが今後も通用するのか、改めて考える時期に来ているのではないでしょうか。
実際に、一部では非24時間営業を選択する店舗も誕生しています。
これは時代の変化に対応する新しい選択肢の一つですが、現役オーナーとして見ていると、まだ十分な柔軟性があるとは言い難いようにも感じています。
もちろん、本部が24時間営業を重視する背景には、ブランド価値や物流効率、地域インフラとしての役割を維持したいという考えがあることも理解しています。
一方で、加盟店は独立した事業者です。
店舗経営は慈善事業ではありません。
利益を確保し、スタッフが安心して働ける環境を整え、オーナー自身も持続可能な働き方を実現して初めて、長期的な店舗運営が可能になります。
だからこそ、これからの時代は売上だけではなく、オーナー自身の生産性を高める経営も重要なテーマになっていくと私は考えています。
今回は、私自身が作成した利益シミュレーションツール「SEMC(Seven-Eleven Management Calculator)」を使い、
- 現在に近い最低賃金(時給1,100円)
- 将来を想定した時給1,500円
この2つのケースを比較しながら、24時間営業の将来について現役オーナーの視点で考えてみます。
シミュレーションの前提条件
今回の比較では、24時間営業と**非24時間営業(0時~5時閉店)**をできるだけ同じ条件で比較しました。
変更したのは営業時間と、それに伴う売上・人件費・本部チャージのみです。
共通条件
- 契約タイプ:Cタイプ
- 加盟年数:5年以上
- 複数店契約
- 地域区分:C地区
- 営業日数:30日
- 売上総利益率(GP率):31%
- 廃棄率:2.5%
- 雑収入:5万円
- 水道光熱費・修繕費・電話料などの固定経費は同条件
- その他経費も同条件
比較で変更した条件
今回変更した条件は4項目です。
① 営業時間
- 24時間営業
- 非24時間営業(0時~5時閉店)
② 深夜売上
深夜0時~5時の売上を
1日約4万円(月120万円)
として計算しました。
その結果、
- 24時間営業:月商1,950万円
- 非24時間営業:月商1,830万円
となっています。
③ 人件費
今回は
ケース①
昼間時給1,100円
深夜時給1,375円
さらに将来を想定した
ケース②
昼間時給1,500円
深夜時給1,875円
でも比較しています。
④ 本部チャージ
非24時間営業では、
24時間営業減額(約2%のチャージ優遇)
が適用されない条件も反映しています。
つまり、人件費だけではなく、本部チャージまで含めた、より実際の経営に近いシミュレーションです。
このシミュレーションで伝えたいこと
この記事は、
「24時間営業をやめるべき」
あるいは
「24時間営業を続けるべき」
という結論を示すことが目的ではありません。
私が検証したかったのは、
最低賃金の上昇によって、24時間営業の収益構造はどのように変化するのか。
という点です。
さらに、利益だけでは見えない現場の課題についても考えていきます。
例えば、
- ブランド価値
- 地域インフラとしての役割
- 配送効率
- 朝の売場品質
- 深夜スタッフの確保
- オーナー自身の働き方
これらは利益シミュレーションだけでは数値化できません。
だからこそ、数字と現場経験の両方から考えることが重要だと私は考えています。
なぜ24時間営業は続いてきたのか
現在のコンビニがここまで社会に浸透した理由の一つが、24時間営業です。
単純に営業時間が長いというだけではなく、多くのメリットがあるからです。
① ブランド価値
コンビニ最大の価値は、
「いつでも開いている安心感」
ではないでしょうか。
夜中に急な買い物が必要になった時。
仕事帰りが遅くなった時。
体調を崩して薬や飲み物が必要になった時。
ATMを利用したい時。
こうした場面で、「近くのコンビニなら開いている」という安心感は、多くの人の日常を支えています。
この積み重ねが、日本のコンビニブランドを築いてきた大きな要因と言えるでしょう。
② 配送効率
24時間営業には物流面での大きなメリットもあります。
深夜は道路の交通量が少ないため、配送車は効率よく店舗を回ることができます。
また、夜間のうちに商品補充を終えることで、朝のピーク時間には売場が整った状態でお客様を迎えることができます。
店舗だけでなく、物流全体の効率化にも24時間営業は貢献しているのです。
③ 利便性の向上
現在のコンビニは単なる小売店ではありません。
ATMや宅配便、公共料金の収納、コピー機、チケット発券など、生活インフラとしての役割も担っています。
24時間営業だからこそ、「困った時に頼れる存在」として地域に根付いてきました。
これは利益だけでは測れない価値だと思います。
④ 深夜は「売上を作る時間」ではなく「店舗を作る時間」
現役オーナーとして感じるのは、深夜は売上だけを追う時間ではないということです。
この時間帯には、
- 商品補充
- フェイスアップ
- 売場づくり
- POP交換
- フライヤーの清掃
- コーヒーマシンのメンテナンス
- 賞味期限管理
- 翌朝の販売準備
など、多くの作業が行われます。
朝一番に来店されるお客様が「きれいで買いやすい売場」と感じられるのは、この時間帯の積み重ねがあるからです。
つまり、深夜時間帯は単なる営業時間ではなく、翌日の店舗品質を支える重要な時間でもあるのです。
現在の24時間営業が抱える本当の課題
ここまで、24時間営業が持つブランド価値や利便性について紹介してきました。
では一方で、現在のコンビニ経営ではどのような課題があるのでしょうか。
現役オーナーとして最も大きく感じるのは、「人件費」「人材確保」「生産性」の3つです。
これらは数年前よりも確実に深刻化しています。
人件費は毎年上昇している
最低賃金は全国的に毎年引き上げられています。
さらに深夜帯は25%以上の深夜割増が加算されます。
つまり、
最も売上が少ない時間帯に、最も高い人件費を支払う
という構造になっています。
以前は深夜売上でも十分採算が取れていた店舗でも、最低賃金の上昇によって利益構造は確実に変化しています。
今後も最低賃金が上昇していけば、この傾向はさらに強まるでしょう。
生産性という新しい経営課題
現在の経営で重要なのは、
「どれだけ売ったか」ではなく、「どれだけ利益を残せたか」
です。
さらに私は、
「オーナー自身の生産性」
も非常に重要だと考えています。
24時間営業では、人手不足を補うためにオーナーや家族が深夜勤務を行うケースも少なくありません。
しかし、その結果として長時間労働が続けば、心身への負担は大きくなります。
経営者自身が疲弊してしまっては、長く店舗を運営することはできません。
これからは売上だけではなく、
「限られた時間でどれだけ利益を生み出せるか」
という視点も欠かせない時代になっています。
シミュレーション① 現在の最低賃金(時給1,100円)
まずは現在に近い最低賃金で比較しました。
| 項目 | 24時間営業 | 非24時間営業 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,950万円 | 1,830万円 |
| 人件費 | 132万円 | 99万円 |
| 最終利益 | 84万2,350円 | 88万9,400円 |
| 利益差 | ― | +4万7,050円 |
| オーナー夫婦時給 | 2,808円 | 2,965円 |
利益だけを見ると、非24時間営業が約4万7千円高い結果になりました。
しかし、この差だけで24時間営業を否定することはできません。
24時間営業には、
- ブランド価値
- 配送効率
- 地域インフラとしての役割
- 朝の売場品質
といった数字では表れない価値があります。
現在の最低賃金水準であれば、それらを含めて24時間営業はまだ十分に成立する経営モデルと言えるでしょう。
シミュレーション② 最低賃金が時給1,500円になった場合
次に将来を想定し、
昼間時給1,500円
深夜時給1,875円
で比較しました。
| 項目 | 24時間営業 | 非24時間営業 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,950万円 | 1,830万円 |
| 人件費 | 180万円 | 135万円 |
| 最終利益 | 36万2,350円 | 52万9,400円 |
| 利益差 | ― | +16万7,050円 |
| オーナー夫婦時給 | 1,208円 | 1,765円 |
結果は大きく変わります。
利益差は約17万円。
オーナー夫婦の実質時給も約560円改善しています。
つまり、
最低賃金が上昇するほど、
24時間営業による売上増加以上に、人件費負担が大きくなる
ことが分かります。
現在はまだ成立していても、数年後には利益構造が大きく変わる可能性があります。
数字には表れない、もう一つの大きな課題
私が今後さらに深刻になると考えているのは、
深夜スタッフの確保です。
深夜帯は店長が常に店舗にいるわけではありません。
そのため、
スタッフ一人ひとりの判断力や責任感が店舗全体の品質を左右します。
例えば、
- 商品補充
- 売場管理
- 賞味期限チェック
- フライヤー清掃
- コーヒーマシン洗浄
- 防犯対応
- 接客
- 翌朝の準備
これらを少人数で行わなければなりません。
つまり深夜スタッフには、
高い熟練度
責任感
モラル
が求められます。
しかし現在、そのような人材は年々少なくなっています。
採用できても定着しない。
経験者が少ない。
教育に時間がかかる。
外国人スタッフに支えられている店舗も多くあります。
最低賃金が上がるほど、
深夜勤務ができる人材はさらに希少になるでしょう。
これからの課題は、
「時給をいくら払うか」
ではなく、
「安心して店舗を任せられる人材を確保できるか」
になると私は考えています。
店舗ごとに答えは異なる
今回紹介したシミュレーションは、私の店舗条件を基に検証した一例です。
実際には、
- 商圏
- 深夜売上
- 客層
- 契約タイプ
- 人件費
- GP率
- スタッフ構成
などによって結果は大きく変わります。
都市部と地方では深夜売上も違います。
ロードサイド店舗と駅前店舗でも大きく異なります。
つまり、
24時間営業が正解か、非24時間営業が正解かという答えは、すべての店舗で同じではありません。
だからこそ、自店の数字で検証することが何より重要です。
私はそのために**SEMC(Seven-Eleven Management Calculator)**を作成しました。
売上や人件費、GP率などを入力することで、自店の利益構造を可視化し、経営判断の参考にすることができます。
感覚や経験だけに頼るのではなく、数字に基づいた経営判断を行うことをおすすめします。
現役オーナーとしての提言
社会情勢の変化するスピードは、これまで以上に加速しています。
デフレで人材が比較的確保しやすかった時代とは異なり、現在は物価上昇、最低賃金の上昇、人手不足が同時に進行しています。
コンビニ経営も、この変化に合わせて進化していく必要があります。
現在は非24時間営業という選択肢も生まれていますが、現場から見ると、まだ制度全体として十分な柔軟性があるとは言い難いと感じています。
もちろん、本部が24時間営業を重視する背景には、ブランド価値や物流効率、チェーン全体のサービス品質を維持したいという考えがあることも理解しています。
しかし一方で、加盟店は独立した事業者です。
店舗経営は慈善事業ではありません。
利益を確保し、スタッフが安心して働ける環境を整え、オーナー自身も持続可能な働き方を実現することが、長期的な店舗運営には欠かせません。
今回のシミュレーションからも分かるように、現在の最低賃金では24時間営業はまだ十分に成り立つ店舗もあるでしょう。
しかし、最低賃金がさらに上昇すれば、人件費負担だけでなく、人材確保の難しさも加わり、経営環境は大きく変わる可能性があります。
だからこそ、本部には加盟店の現状を正しく認識し、新制度の導入だけで課題を整理するのではなく、店舗ごとの実情に応じた、より具体的で実効性のある支援策や選択肢を提示していくことを期待しています。
そして加盟店側も、「今までと同じだから続ける」という考え方ではなく、自店の数字を分析し、人材状況や地域特性を踏まえながら、将来を見据えた経営判断を行うことが重要です。
コンビニ経営は今、大きな転換点にあります。
その変化に柔軟に対応し、数字と現場の両方を見ながら経営できる店舗こそが、これからの時代に地域から選ばれ、長く必要とされる店舗になっていくのではないでしょうか。
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