コンビニは、近くて便利で、必要なものが一通りそろう場所として成長してきました。
食品、飲料、日用品などを、必要なときに、必要な分だけ購入できる。買い物にかかる時間や手間を減らせることが、コンビニの大きな強みでした。
しかし、現在はコンビニを取り巻く環境が変化しています。
インフレによる購買力の低下。ドラッグストアやスーパーとの競争激化。さらに、最低賃金の上昇による人件費の増加。
売上を伸ばすために企業努力を続けても、物価上昇を下回る成長にとどまれば、実質的な成長を実現できているとは限りません。
その一方で、店舗を運営するためのコストは上昇しています。
今回は、現役コンビニオーナーの視点から、「近くて便利」というコンビニの強みが変化している背景と、これからの店舗経営について考えてみます。
1. インフレによって「近くて便利」の価値が変わった
コンビニの強みは、単に商品を販売することではありません。
近くにあって、必要なものがそろい、短時間で買い物を済ませられることに価値があります。
多少価格が高くても、時間を節約できるならコンビニを利用する。そんな消費行動が、コンビニの成長を支えてきました。
しかし、食品や日用品の価格が上昇すると、消費者の家計負担は大きくなります。
生活必需品への支出が増えれば、ほかの支出を抑えたり、少しでも安く購入できる店を選んだりする人も出てきます。
これまで許容できていたコンビニとスーパーなどの価格差が、無視できない負担になる可能性があるのです。
コンビニの利便性そのものが失われたわけではありません。
利便性は変わらなくても、その便利さに対して支払える金額が変わったのです。
「近くて便利」は、誰にとっても気軽に利用できる価値なのでしょうか。
インフレが続くなかでは、便利さを優先する買い物と、価格を優先する買い物を使い分ける消費者が増える可能性があります。
私は、こうした変化によって、コンビニの利便性が一種の「高級品」のような位置づけになりつつあるのではないかと考えています。
2. 働き方や生活様式の変化で、買い物の選択肢が広がった
コンビニは、時間がないときでも短時間で買い物を済ませられることが強みです。
仕事帰りに食事を買う。必要な日用品を帰宅途中に購入する。忙しい生活のなかで、時間と手間を節約できることには大きな価値があります。
一方、働き方改革や休暇取得の促進、生活様式の変化などによって、買い物に使える時間が増えた人もいるでしょう。
時間に余裕があれば、少し遠くても価格の安い店を選んだり、休日にまとめ買いをしたりすることもできます。
もちろん、すべての人の自由時間が増えたわけではありません。また、自由時間の増加がコンビニの客数にどの程度影響しているのかも、別途検証が必要です。
ただ、消費者が買い物先を選ぶ際に、時間だけでなく価格も重視するようになれば、コンビニにとっては競争環境の変化になります。
時間を節約するためにコンビニを利用するだけでなく、時間を使って節約するという選択肢も生まれているのです。
3. ドラッグストアがコンビニの需要を取り込む
もうひとつ見逃せないのが、競合業態の変化です。
ドラッグストアは、医薬品や化粧品だけでなく、食品、飲料、お菓子、冷凍食品、日用品など、コンビニと重なる商品カテゴリーを拡大してきました。
店舗によって品ぞろえは異なりますが、価格を重視する消費者にとって、ドラッグストアは買い物先の有力な選択肢になっています。
スーパーも、食品の品ぞろえや価格、まとめ買いの面で強みを持っています。
これまでコンビニは、利便性と品ぞろえを兼ね備えることで、幅広い購買需要を取り込んできました。
近くにあり、必要なものが一通りそろう。わざわざ複数の店を回らなくても、買い物を済ませられる。
いわば、利便性と品ぞろえの両面で、幅広い需要を取り込めるビジネスモデルだったのです。
しかし、競合もコンビニが扱う商品カテゴリーに進出し、それぞれの強みを生かして需要を取り込むようになっています。
その結果、消費者は買い物の目的に応じて、コンビニ、スーパー、ドラッグストアを使い分けられるようになりました。
コンビニの強みがなくなったのではなく、これまでコンビニが取り込んできた需要を、ほかの業態も取り込めるようになったのです。
これは単純な客離れというより、買い物機会や販売チャネルの分散として捉える必要があるのではないでしょうか。
4. 小商圏の競争激化で、売上を伸ばしにくくなる
コンビニは、限られた商圏のなかで多くのお客様に利用してもらうビジネスです。
その商圏内にスーパーやドラッグストアがあり、さらに競合店が増えれば、お客様の購買行動は分散する可能性があります。
もちろん、競合店が増えたからといって、必ず既存店の売上が減少するわけではありません。商圏の人口、立地、店舗の品ぞろえなどによって影響は異なります。
しかし、商圏内の需要が大きく増えないなかで、複数の業態が同じような商品を販売するようになれば、既存店が売上を伸ばす難易度は高まります。
ここで注意したいのが、日販の増加だけでは店舗の成長を判断できないという点です。
商品価格が上昇すれば、販売数量が伸びなくても売上金額は増えることがあります。
仮に、売上が前年比で増加していても、その伸び率が同じ期間の物価上昇率を下回っていれば、物価上昇を考慮した実質的な売上は縮小している可能性があります。
ただし、店舗の実質的な成長を正確に評価するには、消費者物価指数だけでなく、コンビニ商品の価格変化、販売数量、客数、客単価などを合わせて確認する必要があります。
売上金額が増えていることと、店舗の販売力が強くなっていることは、必ずしも同じではありません。
5. 最低賃金の上昇が店舗経営を圧迫する
売上を伸ばすことが難しくなる一方で、店舗運営に必要な人件費は上昇しています。
最低賃金が上がれば、対象となる従業員の時給を見直す必要があります。
さらに、人手不足や採用競争への対応も必要です。
コンビニは長時間営業を基本とするため、営業時間を維持するには、継続的な人員確保と人件費の負担が発生します。
ここで考えたいのは、最低賃金が50円上昇した場合の影響です。
例えば、時給上昇の対象となる労働時間が月1,500時間であれば、時給50円の上昇によって、単純計算で月75,000円の人件費増加になります。
年間では90万円です。
実際の負担額は、対象となる労働時間、深夜割増、社会保険料などによって変わりますが、店舗経営にとって無視できない金額です。
しかも、これは人件費だけの話です。
仕入原価や光熱費など、ほかの経費も上昇すれば、店舗が吸収しなければならない負担はさらに大きくなります。
売上を伸ばすために努力を続けても、その成長がコストの上昇に追いつかなければ、利益を維持することは難しくなります。
6. 人件費75,000円を吸収するには、日販3万円の増加が必要
では、月75,000円の人件費増加を、売上の増加だけで吸収するとしたら、どれだけの日販が必要になるのでしょうか。
ここでは、ロイヤリティーなどを差し引いた後、追加売上の約8.3%が店舗に残るという仮定で計算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 月間の人件費増加 | 75,000円 |
| 1日あたり必要な利益(30日換算) | 2,500円 |
| 店舗に残る実質利益率(仮定) | 約8.3% |
| 必要な日販の増加 | 約30,000円 |
| 月間の売上増加(30日換算) | 900,000円 |
| 年間の売上増加(365日換算) | 10,950,000円 |
※追加売上に対する実質利益率を約8.3%と仮定した概算です。実際の店舗に残る利益率は、契約条件、商品構成、追加売上に伴う費用などによって変わります。
月75,000円の人件費増加を補うには、日販を約3万円増やす必要がある計算です。
年間の売上増加に換算すると、約1,095万円になります。
もちろん、これは人件費の増加分だけを補うための試算です。ほかの経費が増えれば、さらに売上を伸ばす必要があります。
では、小商圏で競争が激しくなり、消費者の購買力も低下しているなかで、毎日3万円の日販増加を継続的に実現できるでしょうか。
品ぞろえを改善する。販売促進を強化する。接客品質を高める。業務効率化を進める。
こうした企業努力は、もちろん重要です。
しかし、企業努力を続ければ、必ず人件費の上昇を吸収できるわけではありません。
売上成長だけで、継続的なコスト上昇を補い続けることには限界があるのではないでしょうか。
7. 2020年、公正取引委員会の調査が示した深夜営業の課題
ここで、2020年に公正取引委員会が公表した調査を振り返ってみます。
公正取引委員会は、コンビニ本部と加盟店の取引実態を把握するため、大手8チェーンの加盟店57,524店にアンケートを依頼し、12,093店から回答を得ました。回答率は21.0%でした。
この調査では、深夜営業に関して、次のような結果が示されています。
- 77.1%の店舗が、深夜帯は赤字と回答
- 66.8%のオーナーが、時短営業への切り替えを希望・検討
- 93.5%の店舗が、人手不足を感じていると回答
出典:公正取引委員会「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」
公式資料:
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/sep/200902_1.html
※2020年の調査結果であり、現在の加盟店の割合を示すものではありません。
この調査から分かるのは、深夜営業の採算、人手不足、オーナーの負担が、すでに当時から大きな課題だったということです。
時短営業を希望・検討するオーナーが多く存在していたことは、24時間営業を維持することが、すべての店舗にとって容易ではないことを示しています。
公正取引委員会はその後、フランチャイズ・ガイドラインを改正し、営業時間短縮の協議などについて、独占禁止法上の考え方を示しました。
ただし、調査結果が示されたからといって、すべての店舗で深夜営業を中止すべきということではありません。深夜帯の需要や収益性は、立地や客層によって異なります。
重要なのは、24時間営業を一律に考えるのではなく、店舗ごとの採算性や人員確保の状況を踏まえて判断することではないでしょうか。
8. 本部に期待しているだけでは、手遅れになる可能性もある
ここまで、インフレによる購買力の低下、競合業態との競争激化、最低賃金の上昇による人件費負担について考えてきました。
こうした環境の変化に対して、本部が新しい施策を打ち出し、店舗経営を支える仕組みを改善してくれることを期待したいところです。
しかし、本部がいつ、どのような対策を実施するのか。それが個々の店舗の経営改善につながるのかは、必ずしも分かりません。
そのため、本部の対応を待つだけでなく、自分の店舗を守るために何ができるのかを、オーナー自身も考えておく必要があります。
まずは、深夜帯の売上、粗利益、人件費、光熱費などを確認し、現在の営業体制が持続可能なのかを検証することです。
すでに深夜ワンオペで運営している店舗であれば、安全性や緊急時の対応、従業員の負担も含めて、今の体制を続けられるのかを考えなければなりません。
人員を減らすだけではなく、作業そのものを減らす仕組みづくりも重要です。
そのうえで、深夜帯の採算が改善せず、営業継続が経営を圧迫しているのであれば、深夜営業の中止や営業時間の短縮を検討することも選択肢になります。
もちろん、営業時間の変更には契約上の条件があり、オーナーが自由に決められるとは限りません。本部との協議や契約内容の確認が必要です。
それでも、経営が行き詰まってから対応を考えるのでは遅いかもしれません。
深夜営業の見直しでも経営の改善が難しく、事業を継続すること自体が困難になった場合には、契約条件や違約金などを確認したうえで、契約解除を含めた選択肢を検討する局面もあり得ます。
契約解除は簡単な決断ではありません。しかし、オーナー自身の生活や将来、資産を守るという観点から、事業を継続する場合と撤退する場合の両方を把握しておくことは重要です。
本部に期待することと、本部に依存しすぎないことは、両立できるはずです。
経営環境が変化しているからこそ、店舗の利益を把握し、改善策を検討し、必要であれば営業時間や事業継続の判断まで含めて準備しておく。
それが、これからのコンビニ経営において、オーナー自身を守るための備えになるのではないでしょうか。
まとめ|日販の成長だけで、オーナーの利益を守れるのか
インフレによる購買力の低下、競合業態の進化、小商圏での競争激化、そして最低賃金の上昇。
これらの変化は、コンビニのビジネスモデルを改めて考えるきっかけになります。
「近くて便利」という価値がなくなったわけではありません。
しかし、消費者が価格に敏感になり、買い物先を使い分けるようになれば、便利さだけですべての需要を取り込むことは難しくなる可能性があります。
その一方で、店舗には人件費をはじめとする経営コストの上昇が押し寄せています。
今回の試算では、月75,000円の人件費増加を補うために、日販約3万円の上積みが必要となりました。
これは、売上を伸ばす努力が重要である一方、売上成長だけに頼る経営には限界があることを考える材料になります。
本部が新しい施策を打ち出すことを期待するだけではなく、オーナー自身も店舗の収益構造を把握し、経営を守るための選択肢を準備しておく必要があります。
深夜ワンオペの継続、深夜営業の中止、そして事業継続が困難になった場合の契約解除まで。実際の契約条件や地域への影響を踏まえながら、早い段階で検討しておくことが大切です。
これからのコンビニ経営に問われるのは、どれだけ売上を伸ばせるかだけではありません。変化する市場環境のなかで、オーナーが持続的に利益を確保できる仕組みをつくれるかどうかです。
そして、その仕組みを本部に期待するだけでなく、自分自身でも考え、準備しておくことが必要なのではないでしょうか。
現場で経営を続ける立場から、これからもコンビニ経営の現実を数字とともに考えていきたいと思います。
コンビニ経営や資産形成について、ほかの記事も「コンビニ大家のリアル経営禄」で発信しています。ぜひご覧ください。
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